平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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高木彬光『ゼロの蜜月 新装版』(光文社文庫)

ゼロの蜜月 新装版 (光文社文庫)

ゼロの蜜月 新装版 (光文社文庫)

以前、霧島三郎と妻・恭子の苦境を救った、恭子の親友・尾形悦子。失恋に傷ついた悦子は、大学助教授・塚本と知り合い、プロポーズされた。しかし、結婚式の夜、塚本は外出したまま失踪し、翌朝、絞殺死体となって発見された!新本格を意図した「検事霧島三郎シリーズ」を代表する傑作心理サスペンス。短編「復讐保険」を収録。(粗筋紹介より引用)

1965年9月、光文社カッパ・ノベルスより書き下ろしで刊行。検事霧島三郎シリーズ第三作。



神津恭介、大前田英策、百谷泉一郎、近松茂道に続く高木彬光五番目のキャラクター、霧島三郎。粗筋紹介に「新本格」とあるが、綾辻行人を初めとする「新本格」ではなく、1960年代に笹沢佐保によって提唱された「新本格」を指す。

霧島三郎シリーズは結構読んでいるのだが、これは未読だった。第一作『検事霧島三郎』に出てくる尾形悦子が主人公だが、はっきり言って覚えていない。話の最初にそのことは出てくるし、前作を呼んでいなくても物語を楽しむには全く影響ない。

この霧島三郎シリーズは、本格ミステリの形こそ取っているが、どちらかといえば主人公として出てくる女性の愛を核に置いたサスペンス作品というイメージの方が強い。その印象は、本作品でも変わらず。事件の謎も、推理というよりはインスピレーションで意外な犯人像と動機を思い浮かべ、あとは辻褄が合うかどうかを検証するというスタイルだから、推理としての楽しみは乏しい。まあそれでも、近年の新本格、特に日常系の作品にあるような、明後日の方向を想像するような作品に比べればまだまだましだが。

2時間ドラマにあるような、愛とサスペンスを基調とした本格ミステリ作品を楽しみたい方にはお薦めのシリーズである。

タイトルの意味は、蜜月の時間がゼロであったことを指す。新婚初夜まで体の関係がなかったなんて、今の若い人には信じられないだろうな。




多分何回も書いていると思うが、この霧島三郎シリーズの第四作『都会の狼』は、死刑に感心がある人にぜひとも読んでもらいたい作品。冒頭で霧島三郎が死刑執行に立ち会うが、吊された彼は最後まで「自分は無実、ジャックを探してくれ」と叫んだ。彼に刑務所の中で世話になった主人公は、出所後に妻の協力を得てジャックの正体を探る。しかしジャックのアリバイを証言した人たちが次々に殺されていく。そして彼が犯人として警察に睨まれるようになるという話である。
もちろんフィクションだから、死刑に立ち会い、そしてこの事件に検事として取り組む霧島三郎の内心が、検事全ての考えであるわけではない。それでも、検事ならではと思われる考え方がここで書かれるのだ。