- 作者: ウォルターサタスウェイト,Walter Satterthwait,植草昌実
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1999/07
- メディア: 文庫
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1995年、アメリカで発行。フランス冒険小説大賞受賞作。1999年翻訳。
作者はハードボイルド作家として1980年にデビュー。サンタフェの私立探偵、ジョシュア・クロフトが主人公のシリーズがあるが、本作品以降はボーモントを主人公としたシリーズを書き続けるらしい。日本では歴史ミステリ『リジーが斧をふりおろす』が訳されている。
自信過剰で傲慢な稀代の脱出王フーディニ。心霊術に凝っていた晩年のコナン・ドイル。さらにフーディニをつけ狙う謎の奇術師(そういえばピストルの弾を皿ではじき飛ばして口で受け取るといったマジックを得意にしていたインチキ中国人のマジシャンがいたな)、ピンカートン社の探偵、霊媒師に心理学者、傲慢な貴婦人と利発な小間使い、戦争未亡人とその友人貴族。迎える方も共産かぶれの貴族とその妻、やや色情狂なところがあるその娘、寝たきりの父親。そして裏事情のありそうな使用人たち。さらにはロンドン警視庁の敏腕警部。ちょっとおかしなところのあるような役者をこれだけそろえたものだ。しかも舞台がイギリスの片田舎にある貴族の屋敷。幽霊騒ぎに密室殺人。これだけの古めかしい設定の作品を、1995年のアメリカで発表できたんだから、それだけですごいとしか思えない(アメリカの出版事情なんか知らないけれど)。
作者が古き良き探偵小説を意識して書いたのか、単にフーディニとドイルを絡ませた小説を書きたかったのかはわからない。事件のトリックそのものは単純というか、肩すかしに近いところはあるものの、昔読んだ探偵小説の雰囲気は十分に出ている。登場人物のいずれもエキセントリックなところがあるので、単なる捜査や会話を読むだけでも結構楽しい。過去に名探偵の冒険談を読んでわくわくした、そんな気分を思い出させてくれる作品である。それ以上のものはないけれど。
本の厚さだけを見ると長い気はするが、それほど苦にならずに楽しく読めることができた。