平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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泡坂妻夫『写楽百面相』(新潮社)

写楽百面相 (新潮書下ろし時代小説)

写楽百面相 (新潮書下ろし時代小説)

『誹風柳多留』の板元二代目・花屋二三が馴染みの女の部屋で偶然目にしたそれ(ヽヽ)は、かつて見たこともないほどの強烈な役者絵だった。しかも役者は大坂で行方の知れない菊五郎。だれが、いつ描いたのか……。

上方と江戸を結ぶ大事件を軸に、浮世絵、芝居、黄表紙、川柳、相撲、機関等江戸の文化と粋を描ききった力作!(粗筋紹介より引用)

1993年7月刊行。新潮書下ろし時代小説の一冊。



写楽の謎に迫る趣向の一冊なのだが、馴染みの女である芸者卯兵衛の謎の死、行方のしれない尾上菊五郎の謎、禁裏の秘め事を描いたご禁制の本「中山物語」の秘密……と様々な謎や事件が絡み合い、いったいいつ写楽の謎に迫るのかさっぱりわからないまま物語はどんどん進んでしまう。途中で寛政の改革を指揮した松平定信なども出てくるし、浮世絵、芝居、黄表紙、川柳、相撲、機関、手妻といった江戸の文化も物語を彩る。登場人物も蔦屋重三郎十返舎一九葛飾北斎などといった江戸時代を代表するような人たちばかりだ。各章の題名が一から十までの文字を順番に入れたものになっているなどの遊びなども相変わらずさすがというか。なんだか色々な要素がこれでもかとばかりに詰め込まれているから、面白いのだがいったい何を言いたかったのかさっぱりわからないというへんてこりんなところもある時代小説だ。

最後の章には、写楽の正体にかかわる出来事や諸説などが年代順に並べられている。世の中には色々な説を唱える人がいるものだと、素直に感心してしまう。