平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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斎藤純『海へ、そして土曜日』(講談社文庫)

海へ、そして土曜日 (講談社文庫)

海へ、そして土曜日 (講談社文庫)

70年代に作られたという"幻の映画"が、蒸発した夫の部屋から出てきたので見てくれないかと人妻から誘われたぼくは、一夜を共にしてしまった。それが彼女との最後になった。ぼくは幻のフィルムを作った男たちを、女子大生・初美と共にバイクを駆って探し回り、1人の美女を巡る深い疑惑の淵に飛び込んだ。(粗筋紹介より引用)

1989年11月、『ダークネス、ダークネス』のタイトルで刊行。1993年7月、大幅に加筆改稿の上、改題して文庫化。



斎藤純の長編2作目。主人公は前作『テニス、そして殺人者のタンゴ』とは異なるものの、造形自体はそれほど変わらない。職業はラジオ制作の音楽ディレクターで、元人気ロックバンドのベーシスト。バイク乗りでジャズが好きで酒を飲み、どことなく無頼だが女にモテ、女子大生の恋人が居る。

幻の映画『ダークネス、ダークネス』を巡り、主人公は関わった人物たちを探し回るのだが、その肝心の映画の魅力がもう一つ伝わってこない部分があるのは残念。それとも自分の感受性が悪いのだろうか。事件の動機も今一つだった。この程度で殺人に手を染めるだろうか。

どうでもいいが、粗筋の「バイクを駆って探し回り」は誤り。初美と一緒に動くのは小説の最後の方だし、しかも初美の車の運転だ。

事件の謎自体は単純なのだが、ジャズが流れる大人のハードボイルドな雰囲気を楽しむ作品、という仕上がりになっている。前作の方がもう少しミステリの味付けがあった。音楽やバイク、車や酒などへのこだわり、洒落た会話などが好きな人なら楽しめるだろう。「新感覚ハードボイルド」と銘打たれているが、本作品は片岡義男の作風に近いところを感じた。お洒落な作品、大人なムードを楽しみたい人にはお勧め。