- 作者: 稲垣高広
- 出版社/メーカー: 社会評論社
- 発売日: 2009/09/01
- メディア: 単行本
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ビッグネームでありながら、同じトキワ荘仲間の石ノ森章太郎、赤塚不二夫、そして元相棒の藤子・F・不二雄と比較すると今ひとつ影の薄い感がある藤子不二雄A。その大きな原因は、ヒット作のほとんどが藤子不二雄時代に描かれた、ということが大きいだろう。藤子不二雄が二人いることは知っていても、誰がどの作品を描いた、ということは案外知られていないのではないだろうか。もしくはどっちが描いたかなどということには興味がないのではないだろうか。そしてそれは、二人がコンビ解消した後も変わらない一般認識ではないだろうか。何も知らない人から見たら、確かに藤子不二雄Aは『笑うせぇるすまん』の作者かもしれないが、結局は『ドラえもん』の作者とほとんど同一視されているのではないだろうか。
ヒット作は多いものの、そのいずれもが『ドラえもん』の陰に隠れていることは、本人はどうとも思っていないにしろ、ファンにとっては大いなる不幸である。藤子Aは「無冠の帝王」とも一部で呼ばれていた。コンビ解消前に受賞した小学館漫画賞はいずれも藤子F作品であるし、その後も漫画関連の賞は一つも受賞していなかった。初めての受賞は2005年の第34回日本漫画家協会賞文部科学大臣賞である。デビュー50年目にして初の受賞である。
話が横道に逸れてしまったので元に戻すが、本書は藤子Aファン7人がテーマ毎にその魅力をたっぷりと語った1冊である。メーリングリストを使った座談会形式になっているので、所々行ったり戻ったりしている部分があるのはもどかしいが、ファンならではの熱さとディープさは十分感じられる。藤子Aのギャグ漫画が赤塚不二夫全盛期と重なっており、競い合っていたという事実はなるほどと唸らされた。
残念なことと言えば、最初の『まんが道』あたりではまだ手探り状態だったのか、今ひとつ議論が噛み合わず、そしてディープさが足りなかったこと。そしてあとがきでも書かれているが、『プロゴルファー猿』といったスポ根もの、『魔太郎が来る』『ブラック商会変奇郎』のような長編ブラックもの、『笑うせぇるすまん』『憂夢』のような連作ブラックもの、『シルバークロス』のようなアクションものなどについて語られていないことだ。次を予定しているのであれば、PARマンシリーズのエッセイなどにも触れてほしいところだ。
それと座談会形式では話題が拡散してしまうので、ご本人による評論集もお願いしたい。
おまけ:ご本人のブログはこちら(http://d.hatena.ne.jp/koikesan/)。