平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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深谷忠記『一万分の一ミリの殺人』(講談社文庫)

一万分の一ミリの殺人 (講談社文庫)

一万分の一ミリの殺人 (講談社文庫)

致命率70パーセント、エイズよりも恐ろしいという国際伝染病“エボラ出血熱”の男性の真性患者が東京で発見された。さらに疑似患者も次々に出た。第一次感染者と思われる女は行方不明。国立微生物医学研究所内部の人間によるウイルス漏出説を探る新聞記者は殺されてしまう。綿密な取材と完壁なデータに裏打ちされた俊英の都会派ミステリー。(粗筋紹介より引用)

1985年、第3回サントリーミステリー大賞佳作『殺人ウイルスを追え』を改題し、廣済堂ノベルスから1987年6月に出版。1989年10月文庫化。



深谷忠記は1982年に『ハーメルンの笛を聴け』で江戸川乱歩賞最終候補に選ばれている。本作で佳作を受賞後、作品を多数発表するようになったため、世に出るきっかけとなった作品といえよう。

エボラ出血熱伝染の謎と、新聞記者殺人事件の謎が交互に絡み合い、研究所における人間関係と出世が複雑に関連してさらに混迷を深めるという展開。解説でも書かれているが、確かに取材力はすごい。エボラ出血熱に関して丹念に取材を行い、データをそろえ、事件を組み立てる構成力には感心した。しかしその構成に力を注ぎすぎたか、事件を取り巻く登場人物の描写がさっぱりであるため、誰が誰だかわからないままページばかりが進んでしまっているのがマイナス。登場人物の多さが、わかりにくさに拍車をかける始末。第一次感染者と思われる女性の謎などの取扱いなどはうまかったのだから、人物と背景の説明のみで事件が始まって終わったのが非常に残念。人物を取り巻くドラマなどをもう少し絞っていれば、大賞を取っていたかもしれない。

新人に有りがちの、力を入れすぎてしまった作品。勿体ないな。

しばらく止まっていた、サンミス賞全作品読破をつい最近復活させた。数え間違えでなければ、残り12冊。さあ、頑張るぞ。