平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ミステリー文学資料館 編『「宝石」一九五〇: 牟家殺人事件』(光文社文庫)

「宝石」一九五〇: 牟家殺人事件 (光文社文庫)

「宝石」一九五〇: 牟家殺人事件 (光文社文庫)

戦後まもなく創刊され、乱歩の「幻影城」、横溝の「本陣殺人事件」を連載、さらに島田一男、山田風太郎高木彬光鮎川哲也などきら星のごとき作家たちを世に送り出し、現代ミステリーの礎となった名雑誌「宝石」。そのピークともいえる一九五〇年に掲載された作品を精選。幻の作家・魔子鬼一の異国趣味溢れる長編「牟家殺人事件」はじめ傑作満載のアンソロジー。(粗筋紹介より引用)

2012年5月刊行。長編、魔子鬼一『牟家殺人事件』と、宮原龍雄「首吊り道成寺」、岡沢孝雄「四桂」、椿八郎「贋造犯人」、岡田鯱彦「妖奇の鯉魚」の4短編に、江戸川乱歩「「抜打座談会」を評す」、木々高太郎信天翁通信」の2評論を収録。『悪魔黙示録「新青年」一九三八』に続くミステリ・クロニクルの第二弾。



1950年がミステリ界にとってどういう年だったかというと、『新青年』が廃刊になった年。そして「抜打座談会」を挙げないわけにはいかない。とはいえ、「抜打座談会」が載ったのは『新青年』1950年4月号だから、『宝石』を取りあげている本書には載っていない。乱歩の「「抜打座談会」を評す」が載っているが、肝心の座談会が載っていないというのはやはり物足りない。それぐらい編集でどうにかしろよと言いたかった。

ただ、1950年を選んだのは、単に『牟家殺人事件』を載せたかっただけのような気もする。解説も今一つだし、この年を選んだ理由をもうちょっと書いてほしかった。

個々の作品に移ると、『牟家(ムウチャア)殺人事件』は読みにくい。舞台も中国・北京だし、登場人物も全員中国人。しかも名前が読みづらいし、覚えづらい。そのせいで物語を把握するのに非常に苦労した。結局警察が何もできないまま牟家の人物が次々と殺されて、推理もないまま終わっただけのような気もする。まあ、珍品と言えば珍品だろうが、それだけだった。読めただけで良しとするか。

「首吊り道成寺」は芝居『京鹿子娘道成寺』を演じる一座で発生する殺人事件。謎やトリック、登場人物の人間模様を考えると、短編ではちょっと勿体ない。逆に言うと、詰め込みすぎ。

「四桂」は棋士を扱った短編。棋士とトリックの絡め方はよくできていると思うが、どうせなら有名な詰将棋を持ってくるのではなく、自作の四桂詰めを作ってほしかったというのは要求しすぎか。

「贋造犯人」は軽めの作品。それ以上、何も言い様がない。

「妖奇の鯉魚」は『雨月物語』系列の作品。幻想怪奇小説でありながらも、最後はミステリ風味で終わるところが面白い。

「通天翁通信」は木々高太郎の連載だったようだが、この人の文章はほんとうにわかりにくい。この人の主張が受け入れられなかったのは、一つはこの文章にあったんじゃないかと思ってしまう。

どうせ収録するなら、アンソロジーなどで載っていない作品を読みたいもの。その辺を期待したいけれど、もう無理かな。出版社もマニアのために売れない本を作るわけにはいかないだろうし。