平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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スティーヴン・ハンター『真夜中のデッド・リミット』上下(新潮文庫)

真夜中のデッド・リミット〈上巻〉 (新潮文庫)

真夜中のデッド・リミット〈上巻〉 (新潮文庫)

真夜中のデッド・リミット〈下巻〉 (新潮文庫)

真夜中のデッド・リミット〈下巻〉 (新潮文庫)

アメリカ・メリーランド州の山中深く埋められた核ミサイル発射基地。難攻不落のこの基地が、謎の集団に占拠された。最新鋭核ミサイルの発射を阻止するためには、基地へ侵入するしかない。ミサイル発射までに残された時間は十数時間。基地奪回に出動した歴戦の勇士プラー大佐率いる特殊部隊デルタ・フォースは世界の終末を救えるのか…。息詰まる迫力で描く大型軍事サスペンス。(上巻)

核ミサイル基地を占拠した謎の集団の正体が明らかになった。彼らはたんなるテロ集団ではなく、激しい訓練を受け、組織された軍隊だったのだ。真正面から彼らに戦いを挑む特殊部隊デルタ・フォース、州兵、レンジャー部隊。そして、廃坑のトンネルから基地侵入を図るベトナム帰還兵ウォールズと元ベトコンの女性戦士ファン。核ミサイル発射へのデッド・リミットは刻々と迫る……。(下巻)

1988年に発表された作者の第四作。1989年翻訳。



人気冒険小説作家、スティーヴン・ハンターの初期代表作。アメリカの核ミサイル発射基地が占拠され、ミサイルが発射されるかどうかの攻防を、攻める側、護る側、そして外部にいる多数の視点から同時進行で物語が進むタイムリミット・サスペンス。

物語の骨格は非常に単純なのだが、舞台の設定、様々な登場人物の心理描写、デッド・リミットまでの息詰まる攻防と、物語を成立させるための道具立ては完璧と言ってよい。何よりも多重視点で物語を進めているのに、中身がだれていないところがすばらしい。タイムリミットを敵味方の二方だけでなく、様々な登場人物の視点で、しかも三人称で物語を進めてしまうと、極限状況下にあるはずのサスペンスが失われてしまうことがあるが、この作品ではそんなもどかしさが全く見られない。

狂気に取り憑かれているとはいえ、己の信念を遂げるために困難に立ち向かう人たち、そして祖国の平和を守るために僅かな光を見つけようと絶望的な戦いに繰り出す人たち。そんな人たちが繰り広げる戦いに、読者はただ素直に感動すればよい。エピローグで男がつぶやくある台詞は、今までの過酷さと当たり前の生理現象を対比させていてとりわけ印象深い。

とまあ、すでに世間の評価が固まっている作品を20年後に読んでみたのだが、古さは感じなかったな。今でも十分楽しく、どきどきしながら読むことができる傑作でした。