平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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スチュアート・ウッズ『湖底の家』(文春文庫)

湖底の家 (文春文庫)

湖底の家 (文春文庫)

新聞社を辞め、作家修業中のハウエルは湖畔の町にやってきた。彼はそこで、ダム建設の際最後まで立ち退き要求に応じず、消息を断った家族がいたことを知る。彼らはどこへ消えたのか? そして、湖底にたゆたう影の謎は? 非協力的な住民たちをまえにハウエルの疑念は深まっていく。現実と幻影が錯綜するゴシック・サスペンス。(粗筋紹介より引用)

1987年の作品を同年に邦訳単行本で刊行。1993年に文庫化。



処女作の『警察署長』は面白かったので、期待して読む。とはいえ、新刊で買いながら今頃読むのもどうかと思うが。そういえば『潜行』も買ったままにしていたような気がする。

ジャンル分けすればホラーになるのだが、この作品の場合は粗筋紹介にあるように、ゴシック・サスペンスとした方がしっくり来る。恐い、というよりは頭に靄がかかったまま映画を見せられるような、不思議な感覚を味わった。特に、湖底に沈んでいるという家のイメージがその象徴である。

俗すぎる現実と幻影の狭間を漂いながら、それでいて明快な結末を付けてしまうところはこの人らしいところなのだろうか。ゴシックものにこういう結末を付けるのはどうかと思うときもあるのだが、本作では正解だろう。夢から覚めたような、という言葉がぴったり来る結末であり、面白く読むことができた。

ちなみに主人公のハウエルはピュリッツァー賞を受賞しているのだが、その時の事件が『警察署長』の第三部である。このようなお遊びは読んでいて楽しい。