平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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マイクル・クライトン『ジュラシック・パーク』(上)(下)(ハヤカワ文庫NV)

ジュラシック・パーク〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

ジュラシック・パーク〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

ジュラシック・パーク〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

ジュラシック・パーク〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

霧につつまれたコスタリカの孤島で、極秘のうちに建設が進められているアミューズメント・パーク――それが〈ジュラシック・パーク〉、バイオテクノロジーで現代によみがえった恐竜たちがのし歩く、驚異のワンダーランドだ。オープンをひかえ、視察のための顧問団が島に向かって出発した。だがその前途には、人類がいまだかつて体験したことのない恐怖が待ちかまえていた。スピルバーグ大型映画化の夢の恐竜サスペンス。(上巻粗筋より引用)

島の見学ツアーに出発した顧問団の一行、そしてパーク創設者の孫である子供たちを見舞った、すさまじいパニック! コンピュータで完全にコントロールされているはずのシステムに次々と破綻が生じ、停電したパーク内で、獰猛なティラノサウルスが、悪賢いヴェロキラプトルの群れが、人間たちに襲いかかる。科学知識を駆使した新しい恐竜像、ロマンと興奮あふれる面白さで話題をまいた、スーパー・エンターテインメント!(下巻粗筋より引用)

1990年発表。1993年3月文庫化。

例によって今頃読むか、という感じで取り出した上下本。映画には興味がないので、予備知識はほとんどなかった。読む前は、単にクローンで現代に甦らせた恐竜が暴走して人間を襲う、というイメージしかなかったのだが、読んでみると思っていたより背景がしっかりと描かれていたことにびっくりした。確かにこれなら上下二巻本のボリュームが必要である。

恐竜を誕生させる科学的根拠とその背景、ジュラシック・パークに携わる人たちの背景と人間模様、視察に訪れた人たちの視点とその背景、科学への信頼と過信。様々な要素が詳細に、そして過不足無く描かれており、それでいてスケールの大きさと、エンターテイメントとしての流れを損なうことなく振り分けられているその構成は見事と言うしかない。やはりアメリカでベストセラーになるだけの要素はしっかりと持ち合わせている。

登場する人物たちもそれぞれ個性的なキャラクターだが、特に皮肉屋であるマルカム博士の描写は見事。カオス理論を目の前の事実と付き合わせる言葉は、目の前に現れた難解な課題を実現させようとする技術者たちに対して鋭く突き刺さってくる。理論家と実践家による意見の相違は昔からある話だが、恐竜という非現実的な存在と、その襲いかかる恐怖を前にしても戦いが繰り広げられる展開はうまいと感じた。ただし、理論家は理論家でしかなく、世の中へ影響を与えるファクターを何も持ち合わせていない、という視点が抜けていたのは残念であった。批判するのは誰でも出来る。その先に何を生み出すかという視点が、ここでも欲しかった。

科学的知識と、古代のロマンと、そして圧倒的な迫力とサスペンスをミックスさせた一大エンターテイメント作品。とはいえ、続編を読もうとは思わなかったが。