- 作者: 北村薫
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2005/06
- メディア: 文庫
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「朧夜の底」「六月の花嫁」「夜の蝉」の三編を収録。1990年、第44回日本推理作家協会賞(短編及び連作短編集部門)受賞作。
「日常の謎」派の祖とも言うべき北村薫が、唯一栄冠を得た作品集。「鮎川哲也と十三の謎」枠で出版された『空飛ぶ馬』で、本格ミステリのみならず全てのミステリ界に衝撃を与えたのはもう20年近く前のこととなる。北村薫の登場以降、数多くの「日常の謎」派作家が登場し、数多くの作品が出版されてきた。しかし、それらの「日常の謎」の多くは、日常における突飛な謎を解き明かすだけで、論理的な推理という要素が消えつつある。言ってしまえば、落語の三題噺みたいな作品が増えてきており、私みたいな偏屈な読者はがっかりするばかりである。
久しぶりに北村薫の初期作品を読んでみたが、この頃は失われつつあった論理的な謎解きがまだ存在していた。ただ、『空飛ぶ馬』ほど謎解きの面白さはない。どちらかといえば、「私」を初めとする周囲の人物とのやり取りや心理描写、そして「私」の成長にシフトを変えつつある過渡期みたいなところがある。もちろん、それはそれで面白いのだが。
この頃はまだ覆面作家だったし、初版で読んだ当時は作者が男性なのか女性なのかわからなかった。しかし今読んでみると、「私」の書き方がいかにも中年男性の書き方だね。父親の視点で描いていることがわかってしまうのは、自分が年をとった証拠か。
この日本推理作家協会賞全集、多くは元版当時に読んでいるが、20年近く経って読み返してみると新たな発見が多い。年をとってから読み返してみると、当時とは違った感想が沸いてくるものである。