平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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北村薫『ニッポン硬貨の謎 エラリー・クイーン最後の事件』(創元推理文庫)

一九七七年、ミステリ作家にして名探偵エラリー・クイーンが出版社の招きで来日、公式日程をこなすかたわら、東京に発生していた幼児連続殺害事件に関心を持つ。同じ頃アルバイト先の書店で五十円玉二十枚を「千円札に両替してくれ」と頼む男に遭遇していた小町奈々子は、ファンの集いで『シャム双子の謎』論を披露、クイーン氏の知遇を得て都内観光のガイドをすることになった。出かけた動物園で幼児誘拐の現場に行き合わせるや、エラリーは先の事件との関連を指摘し……。敬愛してやまない本格の巨匠クイーンの遺稿を翻訳したという体裁で書かれる、華麗なるパスティーシュの世界。(粗筋紹介より引用)

『ミステリーズ!』2003〜2005年、連載。2005年6月、単行本化。2006年、第6回本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞。2009年4月、文庫化。



クイーン来日時(これは事実)に遭遇した事件を書いた、クイーンの未発表原稿「ニッポン硬貨の謎」を北村薫が訳した、という形のパスティーシュ若竹七海が実際に遭遇したという「五十円玉二十枚の謎」の真相も合わせ、さらにクイーン論も含めた、という見所満載の作品。

本格ミステリ大賞の小説部門ではなく評論・研究部門を受賞した、というあたりで察せられるが、作中で小町奈々子(若竹七海を模した人物)がクイーンに語る、『シャム双子の謎』からのクイーン論が秀逸、らしい。らしい、と書いたのは、私がクイーンに思い入れが全くないから。クイーンの国名シリーズが好きな人なら驚きの声を上げるところだろうが、興味がない人から見たら、ただつまらないだけ。もう少し物語に溶け込んでいればまだしも、単に議論を交わす、というだけじゃあ、物語のテンポを削いでいるとしか言いようがない。本格ミステリファンでも、クイーンの国名シリーズや後期作品を読んでいる人でないと受け入れられないだろうなあ。

クイーン論だけでなく、文体もクイーン風、しかも前期と後期を織り交ぜると言った、北村薫ならではの凝ったパスティーシュではあるが、多すぎる脚注ははっきり言って読みづらい。これも物語のテンポを乱している。

幼児連続殺害事件や、五十円玉二十枚の両替の謎についてはまあまあ面白かったが、長編を支える題材としてはちょっと厳しい。まあ、これ単独で長編を仕上げようとするなら、もっと色々肉付けしただろうとは思うが。

クイーン好きならこれでいいだろうけれど、クイーンに思い入れがない人には読むのがやや厳しい。クイーン論、はっきり言って退屈でした。評論にするなら評論で書けばいいし、パスティーシュをやりたいのなら余計なクイーン論なんか入れなければよかった。中途半端に終わった勿体ない作品。