平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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大藪春彦『暴力列島』(徳間文庫)

暴力列島 (徳間文庫)

暴力列島 (徳間文庫)

米軍基地から大量の致死性神経ガス兵器が略奪され、全学連過激派の犯行と推定された。犯人追跡の命を受けた国際特別情報機関の破壊班員・鷹見徹夫は単身、アルプス山中に潜行、犯行グループとの銃撃戦で十数人を倒したが、不覚にも罠に陥ち、捕らわれてしまった。やがて鷹見はナイフ一本を与えられ、犯人らの“人狩り”のなぐさみとして、山中に放たれた…。傑作アクション長篇。 (粗筋紹介より引用)

1970〜1971年に連載され、1971年10月に光文社より刊行。



今読むと、過激派をネタにした大藪得意のアクションものとしか捉えられないかもしれない。もっとも雑誌連載された時期を知ると、驚くことになる。1970年からの連載。確かに過激派による活動は活発ではあったが、まだ「連合赤軍」の存在は世に出ておらず、過激派による日本政府転覆など夢物語以前の話であった頃の作品だ。ロッキード事件を見越した『黒豹の鎮魂歌』、三億円事件のモデルとされた『血まみれの野獣』など、大藪作品で語られた“荒唐無稽”な物語が後に現実になると同様、本書にも「サリン」「VXガス」などといった言葉が出てくる。米軍基地からの武器の強奪も含め、後の「オウム事件」を彷彿させるような事件をすでに小説で描いている大藪の恐ろしさがここにある。現実は、いつも小説の後に付いてくる。

とまあ書いてみたが、本書の解説である仲英宏の言葉とほぼ同様のことを言っているに過ぎない。もちろん、文章や中身の素晴らしさは、仲の方が数段上である。

 冒頭の過激派学生に対する警察の拷問の様子など、大藪にしてはいささかしつこいとおもったら、これがきちんと伏線になっているのだから驚く。本作品は、事件を起こした犯行グループの正体や目的など、ミステリの犯人さがしに通じる面白さがあり、通常の大藪作品のようにただ犯行グループを追いかけるのとはちょっとちがった趣向が凝らしてある。その辺を楽しむのも一興だろう。

本作品に出てくる鷹見徹夫は、『俺に墓はいらない』で登場済みである。この頃の大藪は、数作品で共通の主人公を使うというパターンがあり(シリーズ化まではいかない)、初期の頃の作風と比べてみるのも、大藪ファンの楽しみである。