平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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西村健『ヤマの疾風』(徳間文庫)

ヤマの疾風 (徳間文庫)

ヤマの疾風 (徳間文庫)

 

  昭和四十四年、高度経済成長の只中。華やかな世相を横目に筑豊の主要産業である炭鉱は衰退の一途。しかし荒くれ者たちの意気は盛んだった。全域に威を振るうのは海衆商会。その賭場で現金強奪事件が起きる。主犯はチンピラの菱谷松次だ。面目を潰された若頭・中場杜夫は怒りに震える。二人の激しい衝突はやがて筑豊ヤクザ抗争の根底を揺さぶることに――。感動の第十六回大藪春彦賞受賞作。(粗筋紹介より引用)
 2013年9月、徳間書店より単行本刊行。2014年、第16回大藪春彦賞受賞。2015年2月、文庫化。

 

 猛牛というあだ名を持つ父を炭鉱事故で亡くした飛車松こと菱谷松次、在日韓国人三世のマッコリこと金永浩、病的なほど女好きなゼゲンこと俊堂忠虎、ゼゲンの彼女で部落出身の江原京子。自由気ままに生きているチンピラ三人組+1人。筑豊を舞台にしたチンピラたちの青春アクションドラマといった作品。まあ、はっきり言っちゃうと厄介者でしかないのだが、それでも読んでいるうちに彼らに引き込まれてしまうから不思議だ。ヤクザやチンピラ、さらにそれを取り巻く人々も、善玉は気持ちのいい人で、悪玉は性根の腐った悪いやつ。ここまで徹底してわかりやすく書かれると、どうしても感情移入してしまうよね。ただのチンピラが暴れまわるだけかと思ったら、徐々に落ちぶれていく炭鉱の歴史や問題点なども所々に織り込まれ、いつしか筑豊のヤクザ抗争につながっていくという、スケールの大きな話になっていくのだが、テンポもよくユーモアが漂っているせいか、深刻さがなく、軽快に読むことができ、さらに読後感がいい。タイトル通り、あっという間に駆け抜けていった風のような男が飛車松であった。
 これは楽しく読んだ。この明るさは大藪春彦にはないものだが、その点を除けばアクションたっぷりの本作が受賞するのもうなずけるだろう。