平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

真保裕一『発火点』(講談社)

発火点

発火点

杉本敦也は21歳。高校卒業後上京して就職したが、人間関係に嫌気がさして退職。その後はアルバイトで色々な職種を経験した。日本がまだバブルに浮かれていた時代、仕事はいくらでもあった。遊園地のアルバイトをしているとき、過去を全く語らない一つ下の山辺靖代と知り合う。いつしか同棲するようになった二人であったが、ある事件がきっかけで二人の中は気まずくなる。そのとき、敦也は触れられたくない過去を靖代に、アルバイト先に知られた。それは12歳の夏、父が殺害されたことだった。

21歳の敦也と、12歳の敦也。二つの物語が交互に語られる。9年前に父を殺害したのは、かつての父の同級生であった。その彼が、仮釈放された。故郷の海で倒れていた彼を家に呼んだ父を、なぜ彼は殺害したのか。

長崎新聞山形新聞など全10紙に、2000年11月〜2002年4月まで掲載。



ここで語られるのは、敦也という人物の成長記録である。様々なバカをやり、哀しい出会いと別れを繰り返し、そして様々な人と出会うことにより、自らの過去を見つめ直す勇気をようやく持つことができ、新しい自分の道を見つける努力を知ることができた、若者の成長記録である。そこに父の殺人事件、動機の探求、犯人との再会などといった要素が含まれる。

この敦也という人物、過去に父親を殺された過去を持つ以外は、典型的な現代のダメ若者として書かれている。その日暮らしで、アルバイトで適当に生活でき、将来のことを何も考えず、ただその日が楽しければそれでいい。読んでいて腹が立ってきますよ。ただの甘えん坊で。まあ、自分にその要素がないのかといわれたら自信はないけれど。

勝手なことをやるだけやって、傷つけるだけ周りを傷つけて、そして最後にようやく自分の愚かさに気が付く。もっともその愚かさに気付くまでに、かなりの人々に大きな傷を与えている。ただ、そこに過去の殺人という要素が絡み合っている点が、人と違うところだ。

何度も書くが、これは敦也という若者の成長物語である。そこに、ミステリの要素は一つも絡んでこない。ミステリとして読んだら、失望しか抱かないだろう。敦也という人物の成長に我々は何を感じるか。

ただ、個人的に書かせてもらうと、感じるものは何もないんだよね(苦笑)。これだったら、もうちょっとミステリ寄りにしてほしかった。せめて犯人の動機探しをもっと複雑なものにするとか、巻き込まれるとか。この辺は好みだと思うけれど、もう少しひねってほしかったと思う。