- 作者: 夏樹静子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1998/02
- メディア: 文庫
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「サンデー毎日」1993年8月1日号から1994年4月24日号に連載。1994年11月、毎日新聞社より刊行された作品の文庫化。
義父から地方ゼネコンを引き継いだ男が、癌の恐怖から解放され、思い出したかつての恋人。偶然の再会から始まった二重生活(デュアル・ライフ)。男にとっては実に都合のよい設定である。妻とかつての恋人(=愛人)という二人の女から見たら、勝手すぎると言いたくなるだろう。これを書いたのが女性である夏樹静子というのが面白い。
これを書いていたとき、夏樹静子は原因不明の腰痛で椅子にも座れないぐらいの状態であったらしい。ほとんどの連載を延期してもらっていた中で、唯一書き続けたという本作品は、作家夏樹静子と、主婦である彼女の二つの生活を投影したものであったのかもしれない。主人公をあえて男性にした理由はわからないが、彼女の隠された本音がそこにあるのだろうと思われる。残念ながら私には見つけられなかったが。
本書はミステリではない。身勝手な男による都合のよい夢の具象化と、その結末を書いた作品である。都合のよすぎる夢はいつか壊れるものであり、主人公にしても例外ではない。もしかしたら夏樹静子は、腰痛による作家生活・主婦生活が壊れてしまう恐怖を、本書に投影することで、逆に逃れようとしていたのかもしれない。