平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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米澤穂信『冬期限定ボンボンショコラ事件』(創元推理文庫)

 小市民を志す小鳩君はある日轢き逃げに遭い、病院に搬送された。目を覚ました彼は、朦朧としながら自分が右足の骨を折っていることを聞かされ、それにより大学受験が困難になったことを知る。翌日、警察から聴取を受け、ふたたび昏々と眠る小鳩君の枕元には、同じく小市民を志す小佐内さんからの「犯人をゆるさない」というメッセージが残されていた。迫る車に気づいた小鳩君が小山内さんを間一髪のところで突き飛ばしたため、小山内さんは無傷で済んだのだ。小佐内さんは、どうやら犯人捜しをしているらしい……。小鳩君最大の事件を描き四季四部作の掉尾を飾る冬の巻、ついに刊行。(粗筋紹介より引用)
 2024年4月、書下ろし刊行。

 恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある小鳩常悟朗と小佐内ゆきが、二人で清く慎ましい小市民を目指す『春期限定いちごタルト事件』『夏期限定トロピカルパフェ事件』『秋季限定栗きんとん事件』と続いた小市民シリーズ完結編。番外編『巴里マカロンの謎』を除くと、前作から15年ぶりの新刊となる。
 高校三年生の冬、小鳩君は轢き逃げにあい、病院に搬送される。思い出すのは、三年前、中学三年生の時に同じ場所で起きた轢き逃げ事件。事件は解決していたが、当時轢かれた小鳩君の同級生が自殺したらしいと聞き、当時の謎を思い出す。一方小鳩君に助けられた小山内さんは、犯人探しを始めていた。
 高校三年生の小鳩君のひき逃げ事件と、中学三年生の小鳩君と小山内さんが遭遇した轢き逃げ事件が交互に語られる。中学三年の轢き逃げ事件は、小鳩君と小山内さんが初めて遭遇した事件であり、二人が小市民を目指すきっかけとなったもの。シリーズの始まりと終わりがほぼ似たような事件を通して対比して描かれるというのは、作者の技の見せ所である。
 三年前の愚かな、青臭い小生意気な子供だった二人と、成長した二人。その違いを見るのが非常に楽しい。三年前に堤防道路で焼失した車の謎ははっきり言って大したものではないし、轢き逃げ事件の犯人もわかりやすいもの。だけど、そこは大した問題ではない。本書は、青春時代の苦い思いと成長を書いた作品なのだ。
 単品として、そして本格ミステリとして読むと弱いかもしれない。しかし、青春小説として、そしてシリーズの掉尾を飾る作品として読むと、傑作と言っていいだろう。過去三作は正直物足りなかったが、本作のためにあったのか、と思ってしまうぐらい、見事なシリーズのまとめ方でした。