- 作者: 夏樹静子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1983/08
- メディア: 文庫
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その頃、宝石会社では、合成宝石への進出をめぐって内紛の火が噴こうとしていた。そして殺人が――。雄大な構図と鮮やかな展開で描かれる本格推理長編。(粗筋紹介より引用)
1980年12月に書き下ろしで刊行された作品の文庫化。
宝石業界や引揚などに関する部分の執筆は、綿密な取材に基づいて行われているということを感じさせるし、情報量に踊らされず物語にとけ込んでいるところもさすが。ただ、肝心の物語そのものが、どうもちぐはぐな感じを受ける。主人公、というかヒロインは遼子なのだろうが、途中でその存在が忘れ去られるぐらい印象が薄い。これは動機の一つとされる合成宝石の問題に関わる部分が、遼子と全く関係のないところで繰り広げられているからである。それに遼子自身が事件の容疑者もしくは狙われている存在となっているわけでもない。もちろん傍観者というわけではないが、それに近いイメージしか浮かんでこない。やはりヒロインがなんらかの疑惑もしくは恐怖に巻き込まれるようでなければ、サスペンスは盛り上がらない。作者にしては珍しい失敗だろう。
一応のアリバイトリックもあるし、本格推理小説仕立てにはなっているが、事件そのものの焦点がぼけてしまっており、物語を楽しむことができない。
作者の場合、書き下ろしよりも連載の形式の方が得意なのではないだろうか。連載の方が毎回盛り上げる場面を作り上げることができるし、それが読む方にも一定のリズムとなってページをめくることができるのである。