平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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駄犬『死霊魔術の容疑者』(マイクロマガジン社 GCノベルズ)

 巨大な版図を誇るラーマ国。しかし、一代で大国を築き上げた「武王」が病を得たことで各地で反乱が勃発し、王国に滅亡の危機が訪れる。だが突如、アンデッドの軍団が反乱軍を襲い次々と鎮圧。禁忌とされる死霊魔術を一体誰が使ったのか。謎の死霊魔術師の行方を追う王国の騎士・コンラートは、ある村で怪しげな屋敷に出入りする一人の少女・ルナに出会う。赤い瞳、白い肌、金色の髪――少女は一体何者なのか? 屋敷の主は死霊魔術師なのか? デビュー作が驚異的売上を記録した最注目の新人作家が贈る、読む者に命の価値を問う珠玉のファンタジック・サスペンス。(粗筋紹介より引用)
 2024年4月、書下ろし刊行。

 ストーリーは、王国の騎士・コンラートから問いかけられたルナの一人語りで進む。ルナは1000年以上も前に魔法で世界を支配していた、滅亡した少数民族アスラの民の血を濃く引く者。小さいころに人攫いにあい、人買いに買われ、家事や勉強やマナーなどを学び、そして死霊魔術師カーンに買われ、弟子となる。途中、他の人物視点によるエピソードを挟むものの、そのほとんどはルナのいままでの人生が語られる。
 淡々と話が進むので、盛り上がりに欠けるところがあるのは事実。別れのシーンとか、もっと感情をこめた文章にしてもいいんじゃないかと思うのだが。とはいえ、ルナはあっという間に成長するし、目が離せない内容になっているので、退屈することはない。
 エンディングに進むにつれ、各エピソードが意外なところで結びつく展開はさすがと言える。作者、絶対ミステリを読んでいるよね、この構成。そして最後に美しいエピソードを持ってくるところはうまい。それと、後日談の使い方が優れている。
 ミステリではないけれど、ミステリでよく使われる構成をうまく味付けにして、感動のエピソードを仕上げるのが作者の持ち味だろう。そんな持ち味が十分に生かされた作品。さて、あなたは「命の価値」にどう答えるか。