平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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夏樹静子『駅に佇つ人』(講談社文庫)

駅に佇つ人 (講談社文庫)

駅に佇つ人 (講談社文庫)

船が波にさらわれて転覆した。救助を待つ途中、前畑聖子は隣にいた50歳の男性から、子供を認知する遺言を託される。聖子は子供の母親へその遺言を伝えたのだが、子供は男性と血のつながりがなかった。「雨に佇つ人」。

ユキ子は取材で松江の老舗旅館を訪れる。無事に取材が終わり帰ろうとしたとき、女将の旦那が人を殺害したと耳にする。先日に気になる話を聞いていたユキ子は密かに事件を追いかける。「湖に佇つ人」。

国会議員の妻である圭子は、ある殺人事件で起訴された塾教師の市原へ面会に行き、そして叫ぶ。私は事件と無関係である、と。市原は自供を翻し、無罪を訴えるようになる。しかし証拠はそろっていた。「駅に佇つ人」。

志摩へ旅行に来た季江子は、交通事故の目撃者になる。運転手の女性は軽傷だったが、助手席の男性は死亡した。普通の交通事故かと思われたが、男性はプレイボーイという評判があり、警察は捜査を始めた。「闇に佇つ人」。

1987年に講談社から出版された作品の文庫化。



大切なものを守ろうとする女性の様々な姿を描いた短編集。女性心理の描写は相変わらず巧みである。手慣れているというか、安定しているというか。新味はないが、読んでいて退屈はしない。

ただ、「駅に佇つ人」の展開はちょっと目を引いた。主眼はあくまで愛する男を助けようとする圭子の姿であろうが、その裏に隠されたもう一つの謎にはびっくりした。