平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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新庄節美『修羅の夏 江戸冴富蔵捕者暦』(東京創元社 創元クライム・クラブ)



南町奉行所定廻り同心、門奈弥之助の手先、南割下水近辺を縄張りにしている本所三笠町の小間物問屋、わらびや清五郎の下っ引き、当年二十四歳になる富蔵は、本来なら日本橋北本船町の水油問屋、掛川屋善兵衛の跡目を継ぐはずだったが、わけあって、先代亡き後、義弟に店をゆずり、灯油の行商をしながら清五郎の下で働いていた。

さるやのご隠居が離れの二階で胸から血を流して死んでいるのが発見される。だが、窓は開いていたが、屋根伝いに上がった気配はない。しかも、下には隠居付の小女が控えていて、誰も二階には上がっていないと、証言する。

この不可能状況の殺しに、門奈弥之助は巧みな解決をつけてみせる。だがしかし、それは父の見込み違いだ、と言い出したのは……二歳の時にかかった疱瘡が目にはいり、失明した十六になる弥之助の一人娘、お冴だった!(粗筋紹介より引用)

密室状況下での隠居殺しの謎を解く「隠居殺卯月大風」。若い母親殺人の犯人を当てる「母殺皐月薄雲」。昼間から殺された寮住まいの後家殺人の謎を追う「後家殺水無月驟雨」の三作を収録。「名探偵チビー」でミステリファンに名を知られた作者、初の大人向け作品集。



この人の本を読むのは初めて。あまり期待はしていなかったのだが、若竹七海の解説を読んで、手に取ってみたのだが、これが結構面白い。「謎解きミステリとしても優れた捕物帳があってもいいんじゃないか。そういうものを誰か読ませてはくれないだろうか、と。その望みがついに叶った。それが、本書である」ということばが全てを物語っているんじゃないだろうか。江戸の描写はどことなく本を引き写しました、というところが見受けられるし、富蔵がここまで好かれる理由もわからない。ヒロインであるお冴もそれほど魅力的には思えない。だけど、物語の中に登場する人たちのやり取りは面白いし、事件の謎や最後に解き明かされる解決などはなかなかのもの。捕物帳を書くのに慣れてくれば、もっと面白いものが書けるのではないかと期待してしまう。まだ卯月、皐月、水無月しか書いていないのだから、残り9ヶ月の捕物を期待したい。



それにしても、若竹七海の解説はうまいねえ。捕物帳というジャンルや本格ミステリとの関わりを説明し(顎十郎や人形佐七を紹介しなかったのは確信犯だろうが)、本書についてネタばれすることなく背景や魅力を紹介し、読者の期待を高めてまとめるというのは、まさに解説のお手本。こういう解説を本屋で見ると、思わず買いたくなってしまうんだよ。辞典に載っているようなプロフィール紹介で終わったり、すぐにネタばれしたり、ファン丸出しのミーハー文章だったり、中身とは関係のないくだらない自説を長々と書くような解説は、げんなりするだけ。解説を見て本を買おうとする人たちも多いのだから、もっと考えて解説を書けよと言いたくなる“解説もどき”が最近は主流を占めているようだから、こういう解説を見るととてもほっとする。



ところで、なぜ捕“者”なんだろう?