平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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横溝正史『完本 人形佐七捕物帳 五』(春陽堂書店)

 横溝正史が愛惜をもって描いた時代劇調ミステリシリーズ―江戸を舞台に、人形のような色男である佐七が繰り広げる推理劇。
 第五巻は日米開戦後に杉山書店から刊行された『人形佐七捕物百話』に収録された書下ろし、樺太で発行された『北方日本』に連載された作品、戦後の『講談雑誌』に連載された作品の計23本が収録されている。
 全集の中で一番収録本数が多い。逆の見方をすると、一話当たりの頁数が少ない。特に戦後すぐの紙不足などといった背景があったのだろう。そのせいか、呆気なく解決したり、佐七の解説だけで終わったりと読み応えが今一つな作品が多い。さらには後味が悪かったり、謎の一部が解き明かされないまま終わったりといった残念な作品もある。
 本巻で読みごたえがあるのは、冒頭の「日本左衛門」。文政に現れた怪盗、日本左衛門が出てくる不可能犯罪物で、佐七作品でもベスト級である。それと、御殿のような屋敷が目覚めると荒れ果てた屋敷に代わっていたという「狸御殿」も傑作。それと「凧のゆくえ」「雪女郎」あたりである。「蛇を使う女」も悪くない。