平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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海渡英祐『燃えつきる日々』(講談社)

燃えつきる日々 (1977年)

燃えつきる日々 (1977年)

昭和15年、歴史の転換期にある日本国内の政局は、枢軸派が親英米派を凌駕し始めていた。物語は海軍省詰め新聞記者、中沢靖彦が密室状況での殺人事件に巻き込まれるところから始まる。――暗雲漂う日米開戦前夜の、嵐の季節を背景に、それぞれの信念にもとづいて時代をひたむきに生きた人々を迫真の筆で描く青春ミステリー・ロマン。『伯林―一八八八年』の著者が、構想五年、ここに完成した書下ろし推理小説巨編。(帯より引用)

1977年8月、書き下ろし刊行。



作者は結構力作を書いていると思いつつ、乱歩賞受賞作と苦虫警部補ぐらいしか読んだことが無かったなと思った時に古本屋で見つけたので手に取ってみた本。もっとも買ってから20年以上、ダンボールの底に沈んだままになっていたが。

舞台は太平洋戦争が始まる直前の昭和15年。まずはアメリカで、外交官の日本人の父と、アメリカ人の母を持つ香代子が、正体不明の日本人・田村と知り合い、恋してしまうところから始まる。それから5か月後、米国から帰国したばかりの大学助教授の岩本の家を訪ねた中沢と香代子が、岩本の射殺死体を発見する。直後に陸軍少佐の根本が岩本を訪ねてきた。玄関には濡れたままの二本の傘があったが、犯人は傘を差さずに帰ったのか。容疑者であるアメリカ帰りの山崎は憲兵隊の取り調べを受けていたという鉄壁のアリバイがあり、捜査は難航。迷宮入りかと思われた。さらに5か月後、銀座に出てきた香代子は手持ちが少ないことに気づき、父のいるクラブへいき、金を受け取った。帰ろうとした時、香代子は田村と再会。数日後、中沢は岩本の婚約者だった輝子と山崎宅を訪れると、山崎が殺されており、そばに岩本と同じ大学の藤田が倒れていた。

戦争前夜という舞台のせいか、作者の戦争に対する否定的な思いが文中に出てきて、納得しつつもやや物語に没頭できない面がある。また、香代子と田代の恋愛が前面に出てくるメロドラマの要素も大きく、推理を楽しむ小説というよりも、戦争前夜を舞台にしたロマン小説の面が強い。特に推理に関する謎の解明が取ってつけたようなものになってしまっており、非常に残念である。

まあ、逆の言い方をすれば、戦争前夜を舞台にしたラブロマンの秀作、という見方もあるわけだが。どっちに重点を置いて読むか、という点で評価が変わるだろう。ただ先にも書いたが、作者の思いが強すぎる部分が、読者には受け容れ難いかもしれない。もうちょっとオブラートに包む書き方もできただろうにと思ってしまう。