- 作者: 中嶋博行
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1998/11/13
- メディア: 文庫
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1994年、『検察捜査』で乱歩賞を受賞した作者が、1995年に書き下ろした作品の文庫化。
茶木則雄の解説が、なかなか的を射ているのではないか。『検察捜査』は日本でもリーガル・サスペンスが誕生したと騒がれたが、本作は当時の書評でほとんど読んだ記憶がなかったし、年末のベストテン関連でもほとんど触れられていない。読んでみるとなるほどと思える部分はある。はっきり言ってしまえば、ヒロインが全然魅力的でないのだ。美人で腕利きだが、恋愛よりも仕事を取るタイプの女性というのは、男から見たら鼻持ちならない女性にしか映らない。今でこそこういう見方は減っているだろうが、それでもこういう偏見はなかなか無くならないものだ。実際、私から見てもヒロインが全然魅力的ではない。途中、事件に振り回される彼女を見て、思わず喝采の声を上げてしまうほどだ。
解説の茶木は、これはアンチヒロインものだと書いているが、そうとはあまり思えない。主人公である水島由里子は、結局は大きな権力に振り回される存在だ。いってしまえば、劇に出てくるヒロインとして、人形のごとく演じているに過ぎない。この作品の最大の欠点はそこにある。ヒロインが人形にしか見えないところだ。だからこそ、読者はこの主人公に思い入れを抱くことができない。作品にのめり込むことができないのだ。
作品そのものは、前作『検察捜査』で指摘された枚数足らず、説明不足といった欠点(これは乱歩賞に枚数規定があるのだから仕方がないのだが)を修正し、リーガル・サスペンスものとして十分通用する作品に仕上がっている。ただ、事件そのものを描くことが中心となってしまい、そこに関わる登場人物たちの描き方がやや疎かになっている。事件の謎やその解決、さらには最後のひっくり返し方などがうまいだけに、その点がとても残念だった。
この作品は、『検察捜査』で注目され、第3作『司法戦争』で大化けする作者の過渡期に当たる作品であったのだろう。だからといって、読まれなくてもいいという作品ではない。少なくとも、私には十分面白かった。弁護士という世界の今をまた一つ知ることができたのは、とても嬉しい。