平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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クレイグ・ライス『眠りをむさぼりすぎた男』(国書刊行会 世界探偵小説全集10)

眠りをむさぼりすぎた男 世界探偵小説全集(10)

眠りをむさぼりすぎた男 世界探偵小説全集(10)

快活な大金持ちのフランクと嫌われ者のジョージ、フォークナー兄弟の驚異の館レイヴンズムーアの週末パーティーに招かれたマリリーは、翌朝、ジョージが寝室で喉を掻き切られているのを発見した。そもそも、パーティーの顔ぶれからして妙だった。辣腕の刑事弁護士、元コーラスガール、万事控えめな英国人夫婦、正体不明の謎の小男、居合わせた人々はみな、ジョージに弱味を握られ、脅迫まがいの扱いを受けていたらしい。その証拠品を取り戻そうとして寝室に忍び込んだ面々は、それぞれジョージを発見しては秘密の露見を恐れて、パーティーが終るまで口をつぐんでいようと決心する。交錯するそれぞれの思惑と、高まるサスペンス。そして一日の終りに一同を待っていた驚くべき結末とは? 40年代アメリカ最高の人気作家ライスがマイケル・ヴェニング名義で発表した幻の傑作。(粗筋紹介より引用)

1942年発表。1995年6月、翻訳。



クレイグ・ライスが別名義で発表した作品。有名ストリッパーのジプシー・ローズ・リーの代作をしていたことは知っていたが、このマイケル・ヴェニングは知らなかった。そのためか、マローン弁護士ものにあるようなドタバタやユーモアは相当控えめである。

単純に言えば、パーティーに招待されていた人のほとんどを脅迫していた人物がベッドで死んでいるが、発見した人物はそれぞれ事情を抱えているため黙っている、という話。まあオチが読めるサスペンスだが文章や人間ドラマが巧みだから読めるなあ、程度かと思ったら、最後に見事ひっくり返される。さすが巧者、ライス。

地味と言えば地味だが、読み終わってみれば巧いなあ、と唸ってしまう作品。時間ごとに章を設け、語り手を次々と変えていく構成も巧妙。驚くようなトリックがあるわけでもなく、ぞっとするような恐怖もないし、ドキドキするような展開もないが、それでも目を離せなくなる筆遣いは見事としか言いようがない。今読むとやや古い、という印象を持つ人がいるかもしれないが、それでも読んで損はない。