都市伝説“砂男”を調べていた学者が刺殺された。死体にはなぜか砂時計の砂が撒かれていて……。奇怪な殺人事件に火村とアリスが挑む表題作など、これまで雑誌掲載のみとなっていた幻の〈火村シリーズ〉2作をはじめ、〈江神シリーズ〉やノンシリーズの貴重な作品6編が一冊に! ファン垂涎のミステリ6編。(粗筋紹介より引用)
1997年~2023年に掲載された単行本未収録短編6編を纏め、2025年1月刊行。
女性三人組の学生アマチュアロックバンド・アーカムハウスの三人、戸間椎奈、小峰美音子、庄野茉央と、オリジナル曲の作詞担当である三津木宗義。椎奈と三津木が親密になり、かんけいがぎくしゃくした状態で開かれたコンパ。場所は美音子の家の敷地にぽつんと建つ離れ。美音子は亡くなった祖父から、離れの中で決して眠ってはいけない、お化けが出ると約束させられていた。そこでコンパ終了後、三津木にそこで泊まって寝てもらい、本当にお化けが出るかどうか確認しようというのだ。そして当日夜、コンパはお開きになり、三人は扉を三か所粘着テープで張ってサインをした。窓には鉄格子があるので、抜け出すことは不可能。そして翌朝、テープをはがして中に入ると、起きてきた三津木の頬には猫に爪で掻かれたような傷があった。密室事件に江神二郎が挑む。「女か猫か」。
推理研の望月と織田が居酒屋で食事中、隣にやってきたのはパズル研究会の男女五人だった。いつの間にか談笑していた七人であったが、そのうちにパズル研副会長の北条博恵から論理パズルの問題を出される。その場で解けなかった望月と織田は、アリス、マリア、そして江神に助けを求める。「推理研VSパズル研」。
編集者の西川
有栖川有栖が東方新聞社社会部の因幡丈一郎から聞いたのは、一週間前に南港から飛び込んで死んだ23歳の男の話。状況からは自殺らしいが動機が見当たらない。前日に一緒に酒を飲んだ友人に語ったのが、昭和の名曲から取った「海より深い川」。火村英生がフィールドワーク中だったのは、北港で海に浮かんでいた女性の他殺死体。捜索願が出ていた女性の情報が入ったが、身長が違い過ぎて別人と判明。事件当日、女性の部屋で男女4人の言い争いを隣人が聞いていたが、その時に出てきたフレーズが男の声で「海より深い川」だった。しかし二人に接点が見つからない。「海より深い川」。
都市伝説の調査研究をしている摂津大学社会学部の小坂部冬彦助教授が、
商店街の中ほどにあって繁昌していた占いの館の女性オーナーが引退して店を閉め、失業してブラブラしている28歳の孫・
この短編集が編まれた経緯は「あとがき」に書かれている。「女か猫か」「推理研VSパズル研」は江神二郎シリーズの短編。「女か猫か」はタイトルこそ「女か虎か」から採られているが、中身は一応密室もの。まあ、箸休めみたいな内容で、シリーズキャラクターを楽しむ作品。「推理研VSパズル研」は実在のパズルを題材としているが、なんか推理研の酔っ払いが夜中で延々と盛り上がっていそうな内容。こんなのでお茶を濁さず、早く長編を書いていくれ。
「ミステリ作家とその弟子」は有りがちな設定とストーリー。まあ、無難に読めるということは間違いない。
「海より深い川」と「砂男」は火村英生シリーズ。「海より深い川」は法律が改正されて古びてしまったから今まで収録しなかったとあるが、ワンアイディアから意外なストーリーが組みあがっていて面白い。「砂男」は連載物で長編化を予定していた中編。たしかにこのままだと、後から出てくる重要人物や結末の描き方に説明不足なところが多く、物足りない。これは長編で読んでみたかった。
「小さな謎、解きます」はJTのウェブサイトに六回に分けて掲載された小品。職人技と言える作品だが、できればもう少し書いてほしかった気もする。このままで終わるにはちょっと惜しい。個人的には、これがこの短編集のベスト。
有栖川有栖の職人技とキャラクターを満喫できる作品集であるし、幻の「砂男」を読めるという意味ではファンお待ちかねというべき一冊である。ファン以外でも退屈せずに読めるだろう。
