平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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横溝正史『横溝正史少年小説コレクション3 夜光怪人』(柏書房)

 横溝正史の少年探偵物語を全7冊で贈るシリーズ第3弾、今回のメインキャラクターを務めるのは名探偵・由利麟太郎と敏腕記者・三津木俊助の黄金コンビ!<br>
 全身から蛍火のような光を放つ謎の怪盗「夜光怪人」、童話に見立てた奇怪な新聞広告通り犯罪を重ねていく「幽霊鉄仮面」、そして金蝙蝠とともに現れる黒装束の怪人「深夜の魔術師」、いずれ劣らぬ冷酷無比・極悪非道な犯罪者たちとの、虚々実々、息つく間もない闘いを描く3篇と短篇「怪盗どくろ指紋」を収録。
 また、掲載誌の休刊により中途打ち切りとなった「深夜の魔術師」の未完バージョンに加え、未発表原稿「深夜の魔術師」「死仮面された女」も収録、資料的価値も充実した一冊。
 今回も初刊時のテキストを使用し、挿絵も豊富に収録した完全版。なかでも、1975年の朝日ソノラマ版刊行以降、探偵役が金田一耕助に変更されていた『夜光怪人』は、じつに50数年ぶりのオリジナル版復活!(粗筋紹介より引用)
 2021年9月刊行。

 

 『幽霊鉄仮面』はおそらく横溝の少年物では一番長いのではないだろうか。幽霊鉄仮面による犯罪予告とその方法、三津木だけでなく御子柴進、等々力警部、そして由利先生まで登場し、鉄仮面の正体を明かす。それだけでなく、鉄仮面を追って満州の奥地まで追いかけ、鉄仮面民族という恐ろしい一族まで出てきて戦うこととなる。何とも派手な展開であり、スケールの大きい作品でもある。
 鉄仮面の正体そのものはそれほど難しくないが、その裏に隠された真相が意外と複雑で、形勢が二転三転するところもすごい。鉄仮面民族はやりすぎな気もしないではないが、結末までの汗握る展開は、横溝の少年物でも一、二を争う内容である。
 『夜光怪人』は角川文庫の金田一耕助バージョンでしか読んだことがないので、オリジナルの由利先生で読むのは初めて。もっとも角川文庫バージョンもほとんど覚えていないな。乱歩にも『夜光人間』という作品があるが、時期的にはこちらの方が早い。今と違ってまだまだ夜は街灯も少なく暗い頃だろうから、闇に浮かび上がる怪人というのは考えたら怖いだろう。ただし、かなり無理な展開があるのはどうかと思うし、あまりにも露骨な伏線があるのはどうか。終盤で獄門島や清水巡査が出てくるのは、楽屋落ち的なファンサービスなのだろうが、当時の読者にわかったのだろうか。それにしても横溝先生、宝探しが好きですね。
 「怪盗どくろ指紋」は由利・三津木物の読み切り短編。設定の仰々しさに比べればあっさりとした結末になっている。それにしても横溝先生、時計やオルゴール、好きですね。
 「深夜の魔術師」は初読。後に『真珠塔』に改作されているという。そちらの方は角川文庫版で読んでいるはずだが、全然覚えていない。ただ、三津木と御子柴進ものだったのだけは覚えている。少年物としてはかなり残酷な展開があり、そもそも自衛本能が働いて無理だろうと思うようなところもある。由利先生と三津木俊助も誘拐されて、その後の展開でも全くいいところなし。古舘譲という少年の活躍ばかりが目立つ。『真珠塔』に改作されたからというのが大きいだろうが、由利や三津木があまりにも不甲斐ないという展開が今まで単行本未収録だったと思われる。
 『幽霊鉄仮面』は少年物の傑作だと思うが、あとは由利先生の活躍が少なかったり不甲斐なかったりと少々物足りない。まあ、それでも戦後の由利先生の活躍が見られたことで満足すればいいのかもしれない。