平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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S・A・コスビー『闇より暗き我が祈り』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 ヴァージニア州の田舎町で葬儀社に勤めるネイサンは、イーソー牧師殺害事件の調査を信徒から依頼される。腐敗した保安官事務所があてにならないからだ。調査のなかで次第に、牧師に裏の顔があったことが判明する。有権者やギャングからの多額の寄付は何を意味するのか。町を支配する暴力から目を背ける神と保安官に代わり、自分の力だけで解決しようとネイサンは決意するが……現代ノワール小説の俊英の鮮烈なデビュー作(粗筋紹介より引用)
 2020年刊行。2025年2月、邦訳刊行。

 邦訳過去三作がいずれも高評価であるS・A・コスビーのデビュー作。ハーパーBOOKSではなくてハヤカワ・ミステリ文庫からの出版というのは理由があるのだろうか。訳者は同じだけど。
 処女作も後の作品と同じく、ヴァージニア州が舞台。ただその後の作品と比べるとジョークやワイズクラック(気の利いた言い回し)が多く、やや軽めに感じた。これは主人公が青年ということもあるかな。友人たち、特に犯罪者であるスカンクとのやり取りも面白いし、どことなく現代的な明るさを感じる。
 一方、アメリカ南部ならではの人種差別、白人と黒人の対立、そして家族がテーマとなっている点については後の作品と同じ。処女作がそのままコスビーの作風の原点となっている。今までの読者も読んで違和感は抱かないだろう。それにしてもアメリカの保安官ってこんなに腐っているのかと思うと、怖いね。
 主人公のネイサンは今でこそ従兄弟が経営する葬儀社に勤めているが、5年前までは保安官事務所にいた保安官補。そしてその前は海兵隊所属ということで、格闘シーンの暴れっぷりが楽しい。どうせだったら腐ったアメリカ社会もぶった切ってほしかったけれど、さすがにそこまで行くと荒唐無稽になっちまうか。
 心の奥底に潜んだ怒りと憎しみがちょっとだけ少ない分、その後の作品に比べれば甘さを感じる。それにノワールの定型通りの展開なのがちょっと残念ではあるが、コスビー節は十分に楽しめる。個人的には、これぐらいの方が読み易い。なんで今まで邦訳されなかったんだろう。