平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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大沢在昌『暗約領域 新宿鮫XI』(光文社)

 信頼する上司・桃井が死に、恋人・晶と別れた新宿署生活安全課の刑事・鮫島は、孤独の中、捜査に没入していた。北新宿のヤミ民泊で男の銃殺死体を発見した鮫島に新上司・阿坂景子は、単独捜査をやめ、新人刑事・矢崎と組むことを命じる。一方、国際的犯罪者・陸永昌は、友人の死を知って来日する。友人とは、ヤミ民泊で殺された男だった――。
 冒頭から一気に読者を引き込む展開、脇役まで魅力的なキャラクター造形、痺れるセリフ、感動的なエピソードを注ぎ込んだ、八年ぶりのシリーズ最新作は、著者のミステリー&エンターテインメント作家としての最高到達点となった!(帯より引用)
 『小説宝石』2018年4月号~2019年10月号連載。加筆修正のうえ、2019年11月、単行本刊行。

 

 前作『絆回廊』より8年ぶりの長編。作品の時間軸としては、前作から数か月後の話らしい。とはいえ、舞台は平成29年以降。よくある話だが、色々と魔法がかかっているようだ。いつもはノベルスになってから買っていたのだが、今回は我慢できずに購入。
 今まで鮫島をかばってきた桃井課長が前作で殉職し、鮫島が課長代理として過ごしてきたが、新たな課長として阿坂景子警視が登場。ノンキャリアで夫子ありの50歳。「基本を守る」「ルールを曲げない」がモットー。正直言って、ここまで警察の現実を見ようとしない警視を初めて見た。いや、私だって警察の現実なんて知らないけれど、どんな組織や会社だって表と裏がある。純粋なんだか、馬鹿なんだか、よくわからない。その割には大して活躍しないけれど、二人の辛みは今後の話かな。
 レギュラーキャラクターである鑑識官の藪が今回は大活躍。また表裏の存在ともいえる香田も登場。他には前作に登場して鮫島を狙った陸永昌も再登場する。逆に元恋人の青木晶は出てこない。
 今までの実績などもあるだろうが、鮫島がアンタッチャブルすぎ。「新宿鮫」という印籠を掲げ、みんなが平伏しているところを突っ走るところがちょっとなあ、とは思ってしまう。作品もなんだかエンタメに徹している部分が強すぎて、面白いのだが、ドミノ倒しみたいにスムーズに事が進んでいる点が染みのように心に引っかかるところである。
 よく闇の世界を描き切れるようなとは思うし、それを新宿鮫という舞台に違和感なく移植できるところはさすが。だからこそ、ありとあらゆるところからもっと抵抗があってもおかしくないだろうに、と思ってしまうのだが、考えすぎだろうか。特に奪還しに行くところ。
 面白く読めたのは間違いないのだが、すんなりし過ぎなんだよなあ、という違和感があった作品。まあ、そんなこと考えず、ただ退屈を紛らわすことができればいいのかもしれないが。