平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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方丈貴恵『名探偵に甘美なる死を』(東京創元社)

「犯人役を演じてもらいたい」と、世界有数のゲーム会社・メガロドンソフトから依頼を受け、VRミステリゲームのイベント監修を請け負った加茂冬馬。会場であるメガロドン荘に集ったのは『素人探偵』8名、その中には「幽世島(かくりよじま)」の事件に関わり現在はミステリ作家となった竜泉佑樹もいた……。だが、穏やかな幕開けを迎えるはずだったイベントは一転、探偵と人質になったその家族や恋人の命を賭けた殺戮ゲームへと変貌を遂げる。生き延びるには、VR空間と現実世界の両方で起きる殺人事件を解き明かすしかない──! 『時空旅行者の砂時計』『孤島の来訪者』に続く、 “館もの”本格ミステリ長編。(粗筋紹介より引用)
 2022年1月、書下ろし刊行。

 

 〈竜泉家の一族〉シリーズ第三弾。『時空旅行者の砂時計』に出てきた加茂冬馬、『孤島の来訪者』に出てきた竜泉佑樹がともに登場する。竜泉家の新しい人物は出てこない。『孤島の来訪者』から約4年後の設定。例によって、今回も冒頭と読者への挑戦状の箇所で、砂時計の「マイスター・ホラ」が登場する。
 VRミステリゲームと出てきた時点で一気にテンションが下がってしまった。第一作の感想で「SF要素ががっちりとトリックや事件の謎に組み込まれると、自分が作ったルールで考えることになるので、たとえ伏線が張られていたとしても一般的には及びもつかない部分で謎解きされてしまうことになる」と書いたのだが、SF要素をVRミステリゲームと変えても同じことがいえる。トリックに合わせていろいろとルールを設定できてしまうので、たとえ不可能犯罪だといわれても、それほど驚きがない。それに、しょせんゲームの中、ということで実際に殺されるわけじゃないから、サスペンス性に欠けるといった印象を抱いてしまうのだ。
 本作は、さすがにそんな単純にはいかなかった。実は素人探偵同士を対象とした殺戮ゲームであったという展開には、少々驚かされた。VR空間で起きた殺人事件の犯人とトリックをすべて解き明かさないと、本当に殺されてしまう。なかなか凝った設定だった。
 とはいえ、そもそも素人探偵がこんなに世の中にいるのかということに違和感があるし、情報が飛び交っているというのにもピンと来ない。そもそも加茂冬馬は素人探偵なのか、と聞きたくもなる。まあそこは小説だから、とやかく言っても仕方がないのだが。最初に関しては、明らかに安楽探偵椅子を皮肉っているよね、絶対。
 殺人の物理トリックは説明されてもああそうですか、としかいう程度の感想ぐらいしかなく、個人的に面白いものではなかったが、事件の背景に隠されたものの方は面白かった。とはいえ、前二作を読んでいないとその面白さは伝わってこないものであるし、そもそも前二作を読んでいないと意味が通じないもの。作者初めての人にはごめんなさいと最初に謝っておいた方がよい気がした。シリーズものと意識して、楽しむしかない。
 はっきり言って、読者を選ぶ作品。一族の別の人が主人公になると予想していたんだけれどね。悪い意味で、予想外でした。