平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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真門浩平『バイバイ、サンタクロース~麻坂家の双子探偵~』(光文社)

 特別に優秀な児童が通う帝都小学校で、群を抜く知能を持つ双子の兄弟、圭司と有人。刑事を父親に持つふたりはミステリが大好きで、身の回りに起こったさまざまな謎に挑戦する。桜の葉は何故ちぎり落された? 雪上の奇妙な足跡の鍵を握るのはサンタクロース? 密室殺人現場からの脱出経路は? トリック解明にロジカルに迫る圭司と、犯人の動機や非合理な行動に興味を持つ有人。6年生の冬、そんなふたりの運命を大きく変える事件が待っていた――――(粗筋紹介より引用)
 光文社の新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」の第三期として、2023年12月、光文社より単行本刊行。

 私立帝都小学校三年生で、現職の刑事を父に持つ見た目が瓜二つの双子の兄弟、 麻坂 ( まさか ) 圭司と 有人 ( あると ) 。入学の頃からの仲良しである山口頼子、外山桜と二年生の時に「帝都小探偵団」を結成。「秘密基地」と称する廃ビルで遊んでいた。時には父親が話してくれる事件の謎を議論することもあった。
 小学三年生の五月の半ばに咳き込むようになった桜は、肺炎と診断されて入院。衰弱した桜は、窓から見える桜の木の葉っぱが全部落ちたらいなくなってしまうと呟いた。しかし今はまだ七月半ば。桜の葉はまだ青々としている。そんなある日、桜の葉がすべてちぎり落とされた。犯人はクラスメイトの中にいるのか。「最後の数千葉」。
 小学四年生の春。昼休みが終わってグラウンドから戻ってくると、圭司が持ってきていたゴッドレンジャーのゴッドペガサス号のミニチュアが机の中から無くなっていた。席の近くの床には、湿った土が落ちていた。盗んだのは対立していたクラスメイトでアリバイの無い竹内洋太郎なのか、それとも他にアリバイの無い村井為朝か高橋祥子なのか。「消えたペガサスの謎」。
 クリスマスイブの夜、村井為朝の父親が自宅の離れで殺害された。ドアの鍵にはピッキングの跡があった。積もっていた雪には三組の足跡が。すべて犯人の足跡と推測されたが、離れに行く向きの足跡が一組と、離れから出る向きの足跡が二組。外から忍び込んだはずなのに、足跡の数が合わない。「サンタクロースのいる世界」。
 高校卒業から一年数か月、山間の高知にある民宿に久しぶりに集まった元サッカー部の仲良し五人。そのうちの一人が、自室で腹にナイフが刺さって死んだ。部屋は密室状態。自殺か、それとも他殺か。土砂崩れで道がふさがり、警察はすぐに来られない。同じ民宿に泊まっていた圭司が事件の謎に挑む。「黒い密室」。
 インフルエンザで休んでいた有人だったが、あっさりと熱が下がって暇だった。そこへ小学校から帰ってきた圭司が、学校で起きた大事件のことを話す。それは殺し。キンタっていう奴が理科準備室で死んだという。しかも圭司は第一発見者の一人だった。「誰が金魚を殺したのか」。
 小学六年生になった圭司たち。頼子がクラスのリーダー格の女子からシカトされるようになった。しかし頼子は明るく、いつもの廃ビルで探偵団の仲間たちと過ごしていた。しかし二月半ば、有人の部屋に集まっていた探偵団の仲間たちに、頼子から暗号のようなメッセージが送られてきた。そして頼子の母から、頼子の居場所を探す電話がかかる。もしかしてと廃ビルに向かうと、飛び降りて死んだ頼子の死体があった。「ダイイングメッセージ」。

 豪快でなりふり構わず行動する圭司と、小心者で人の目ばかり気にしている有人。そんな双子が事件に挑む連作短編集。事象を基にロジックで謎に挑む王様気質の圭司と、人間心理を基に推理する有人。まあだいたいは有人が圭司に振り回されるのだが、時に圭司を悔しがらせる推理を有人が披露するところは面白い。それ以上に、解き方の方向性が正しく見えても答えがとんでもなく明後日の方向になってしまう推理を有人が披露するところは笑った。とことんロジックにこだわった本格ミステリが好きな人は、喜ぶかもしれない。
 ただ、彼らのしゃべり方も行動も語彙力も思考力も大人と全然変わらない点はどうにかならなかったのか。一応「特別に優秀」な設定なんだろうが、それでもこれが小学生の会話か、行動か、などと思ってしまうのは仕方がないだろう。まあ、この辺の大いなる違和感は無視するしかない。作者もわかってやっているのだろうから。もっとも、時に見せる小学生っぽさが、逆に笑ってしまう結果になっている。
 最初は日常の謎化と思ったら、途中で殺人事件が発生し、作品の雰囲気が変わっていく。「黒い密室」の変形アンチ本格ミステリ風味や、「誰が金魚を殺したのか」の叙述トリック(と書いても大丈夫)には作者の工夫が感じられた。
 ただなあ、伏線を貼っていたのはわかるが、最後の話は止めてほしかったというのが本音。一話目から六話目まで、ここまで振り切るのはある意味大したもの。それも処女作で。
 好みの面であまり評価できないが、本格ミステリベスト10には入ってくるだろう。やりたいことはやった、という作者の心意気は伝わった。