平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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七河迦南『七つの海を照らす星』(東京創元社)

七つの海を照らす星

七つの海を照らす星

様々な事情から、家庭では暮らせない子どもたちが生活する児童養護施設「七海学園」。ここでは「学園七不思議」と称される怪異が生徒たちの間で言い伝えられ、今でも学園で起きる新たな事件に不可思議な謎を投げかけていた。孤独な少女の心を支える"死から蘇った先輩"。非常階段の行き止まりから、夏の幻のように消えた新入生。女の子が六人揃うと、いるはずのない"七人目"が囁く暗闇のトンネル…七人の少女をめぐるそれぞれの謎は、"真実"の糸によってつながり、美しい円環を描いて、希望の物語となる。繊細な技巧が紡ぐ短編群が「大きな物語」を創り上げる、第十八回鮎川哲也賞受賞作。(粗筋照会より引用)

「今は亡き星の光も」「滅びの指輪」「血文字の短冊」「夏期転住」「裏庭」「暗闇の天使」「七つの海を照らす星」による連作短編集。2008年、第18回鮎川哲也賞受賞。同年10月、単行本で刊行。



児童養護施設「七海学園」を舞台にした連絡短編集。それぞれの短編で日常の謎が解けると同時に、最後の話で大きな謎が解けるという構成は、第3回受賞者の加納朋子以来、東京創元社お家芸とも言える。逆に言えば、鮎川賞でないと受賞しないだろうということもできるのだが。

主人公である施設保育士の北沢春菜が不思議な事件に遭遇し、児童福祉司の海王に相談して謎が解かれるという設定。これで春菜と海王が恋愛に陥ればあまりにもワンパターン……となるところだが、海王は既婚ということでさすがにその設定は無かった。主人公の友人、野中佳音も描かれ方が悪くない。一応社会的な問題も出てくるが声高に主張しないところは助かった。あまり強く訴えられると、作品の良さが失われてしまう。そういう意味で、島田荘司の選評はくどすぎるのだが。

ミステリとしては弱い。弱すぎ。推理らしい推理もない。謎自体は他愛のないものも多く、いつの間にか解けている謎も多かった。ややご都合主義じゃないかと思うところもあるのだが、あまり扱われない舞台と瑞々しい文体で救われているんじゃないかな。施設に出てくる子供だからといっても明るく過ごす姿には好感が持てるし。

回文のこだわりはどうかと思った。大して面白くもなかったし、小説に寄与しているとも思えない。作者名も回文になっているけれど。

この作品を読んで思ったけれど、日常の謎系は、殺人事件などを扱う本格ミステリと比べ、通常では使えないよと思うようなトリックでも使うことができる分、謎や推理としての面白さが残されている気がする。今更密室やアリバイをストレートに持ち出されも、手垢が付いたと言われると返す言葉がなくなってしまう。

続編『アルバトロスは羽ばたかない』はこのミスや本格ミステリ・ベスト10でランクインしているが、どうなんだろう。少しは化けたのだろうか。