平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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深水黎一郎『エコール・ド・パリ殺人事件 レザルティスト・モウディ』(講談社ノベルス)

 モディリアーニやスーチンら、悲劇的な生涯を送ったエコール・ド・パリの画家たちに魅了された、有名画廊の社長が密室で殺されるが、貴重な絵画は手つかずのまま残されていた。生真面目な海埜刑事と自由気ままな甥の瞬一郎が、被害者の書いた美術書をもとに真相を追う。芸術論と本格推理をクロスオーバーさせた渾身の一作。(粗筋紹介より引用)
 2008年2月、書下ろし刊行。

 作者の第二作目。処女作『ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!』に出てきた海埜警部補らは出てくるも、特につながりはない。
 読者への挑戦状で社長を死に至らしめた犯人は誰か、そして密室はどのように作られたか、と二つの謎を当ててほしいとある。密室の謎はわかりやすい。登場人物も少ないし、恐らく海外某短編パターンだなと予想がつく。となると、犯人も想像がつくというもの。それらしい動機もちゃんと提示されている。そう考えていたのだが、真相を読んでみて驚いた。事件に深い裏があったことに。
 各章で被害者の美術論の一部が抜粋されており、この中にヒントが隠されているのは想像つくのだが、事件の方が見え見えだった(実際は違った)ので、なんとなくスルーしていた。色々とまさか、でしたね。ただ、かなり複雑な構成をそう見せない技術を披露していながら、その技術が今一つ分かりにくいというのは残念なところかも。物語があまりにもスムーズに進むので、驚きの部分が驚きとして伝わらないんじゃないだろうか。
 あぶり出しのように浮かび上がる意外な真相と結末。表と裏の絵が重なることで、別の世界が見えてくるというのは見事でした。処女作は今一つだったが、二作目はこんなに面白かったのかと思うと、もっと早く読むのだったと後悔している。