平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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斎藤栄『徒然草殺人事件』(徳間文庫)

徒然草殺人事件 (徳間文庫)

徒然草殺人事件 (徳間文庫)

横浜の浄水場に水道局員・早島敏男の死体が浮かんだ。早島は以前、公害問題が絡んだ岐阜の水道事業を担当していたため、怨恨による殺人の線が浮上する。が、間もなく新婚だった早島の仲人役を務めた老学者・酒井省三も、三重県・種生で死体となって発見される。酒井は兼好の研究旅行の途中で、その手にオセロの石を握りしめていた。彼を敬愛する鎌倉の郷土誌編集者、石神明子の必死の推理行が始まった……。(粗筋紹介より引用)

1975年2月、カッパ・ノベルスより書下ろし刊行。1999年10月、徳間文庫化。



歴史上の新説と現代の殺人事件を絡めた力作(ここの場合、作者が力を入れているという意味合い)を何冊か書いている作者の代表作の一つ。お見合いで結婚して1週間で夫が殺される妻・ひとみの立ち位置が、今と比べると何とも古風。40年以上も経ってから読むと、やはり違和感があるかな。これが乱歩とかだと古すぎて納得してしまうし、清張あたりだと描き方が上手いからそれほど違和感が生じない。人物の書き方がややステロタイプになっていて、描写が不足しているから、違和感という結果になっているような気がする。また、オセロがどういうゲームかを説明するあたりも、今読むと信じられない気分になる。

トリックの方は、写真のアリバイこそチープだが、電波から撮影位置を探し出すのはちょっと感心した。オセロのダイイング・メッセージは、強引としか言いようがない。犯人の正体も強引さが残るものの、これはまだ許容範囲か。石上が犯人を追いかける理由はかなり弱い。もうちょっと詳しい心理描写が必要である。

確かに力を入れて書いていることはわかるのだが、時代が経つと古くなるタイプの作品であり、読んでいてもちょっと苦痛。水道事業の公害問題という社会派要素が中途半端にしか入っておらず、公害問題が結果としてどうなったんだろうか、という方が気になって仕方が無かった。吉田兼好南朝側のスパイだったという説は、むしろもっと掘り下げてほしかった。面白くなる要素が途中で放り出されているところが、今ひとつと感じた原因だろう。