平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ジェフリー・ディーヴァー『バーニング・ワイヤー』上下(文春文庫)

 突然の閃光と炎。それが路線バスを襲った。送電システムの異常により変電所が爆発したのだ。電力網を操作する何者かによって引き起こされた攻撃だった。FBIは科学捜査の天才リンカーン・ライムに捜査協力を依頼する。果たして犯人の目的は何か? 人質はニューヨーク――史上最大の犯罪計画に、ライムと仲間たちが挑む!(上巻粗筋紹介より引用)
 ニューヨークへの送電を半減させろ。それが犯人の要求だった。だがそれは大停電を引き起こすことになる。殺戮の刻限が迫る中、必死の捜査を続けるライムは、メキシコに出現したウォッチメイカー逮捕作戦の指揮もとらねばならない。二つの大事件に立ち向かう名探偵ライム! 大スケールで贈るシリーズ第9作。(下巻粗筋紹介より引用)
 2010年発表。2012年10月、文藝春秋より単行本刊行。2015年11月、文庫化。

 

 リンカーン・ライム・シリーズ9作目。ニューヨークへの送電を半分にしろという途方もない要求をする犯人と対峙。一方、メキシコではあのウォッチメイカーが現れたので、遠方から逮捕作戦の捜査の指揮を執る。なんともまあ、盛りだくさんの内容となっている。
 上巻は電気の基礎知識の話が多く、面白みに欠ける。感電のところなど、そんなことも知らないのかと思いながら読んでみたら、考えてみるとそういうものなのかもしれない。二度目の事件が起きたあたりからようやく話が盛り上がり、ディーヴァーらしいジェットコースター級の展開が待ち受ける。これでこそディーヴァーだよ、と思うものの、なんとなくいつも通り、ワンパターンな形式じゃないかとも思ってしまうのも気のせいではないだろう。
 だからといって面白くないわけではなく、とくに下巻からは話の筋に引き込まれて目が離せない。やはりお馴染みの面々が活躍する姿は、読んでいてとても楽しい。そこにライム自身の物語が少し絡むことで、作品にいつもと違うスパイスを加味しているところもさすがだ。作者の電気社会に対するちょっとした批判も、定型的なものではあるが面白い。
 ただ、ウォッチメイカーの使い方は、ちょっと勿体ない気がした。これだけの人物をこういう使い方をするのか、という残念な気持ちもある。ライムとの対決は、もっと頭脳戦になってほしかったと思うのは、私だけではないだろう。
 どこから読んでも楽しめる作者だが、やはり最初から順に読むべきだよなとは今更ながら実感した。作品世界の時はしっかり流れている、そんなことを思わせる作品でもあった。それは読者だけがわかる感慨だろう。

 

 

 出張続きで、今週の事件関係は全然まとめていないので、そちらの方の更新は明日になります。

 出張中の新幹線で本を読めなくなったのは、年を取った証拠ですかね。