平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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トム・マクナブ『遥かなるセントラルパーク』上下(文春文庫)

新装版 遥かなるセントラルパーク (上) (文春文庫)

新装版 遥かなるセントラルパーク (上) (文春文庫)

 
新装版 遥かなるセントラルパーク (下) (文春文庫)

新装版 遥かなるセントラルパーク (下) (文春文庫)

 

  ロサンジェルスからニューヨークまで5000キロ。アメリカ大陸横断ウルトラマラソンがはじまる。イギリス貴族、人生の逆転を狙う労働者、貧しい村のために走るメキシコ人、ガッツを秘めた美しき踊り子……2000人のランナーが、誇りをかけてセントラルパークめざして走りはじめる! 圧倒的な感動と興奮の徹夜本、堂々の開幕。(上巻粗筋紹介より引用)
 次々に脱落してゆくランナーたち。砂漠では猛暑と豪雨が、ロッキー山脈では寒さが襲い、オリンピック委員会の妨害でレースは中止の危機に。だが誇りをかけて走りつづける彼らは、力を合わせて敢然とトラブルに挑み、ともに遙かなるセントラルパークをめざす。そこで待つのは「感動」の二文字には収まりきれない圧倒的な感情だ。(下巻粗筋紹介より引用)
 1982年、イギリスで発表。作者の処女作。1984年7月、文藝春秋より単行本刊行。1986年8月、文庫化。2014年12月、新装版刊行。

 

 本書で出てくるアメリカ大陸横断マラソンは、1928年に実際に行われたとのこと。約200人が参加し、当時の新聞は連日その経過を報道した。
 本作はその史実に着想を得て書かれた作品。参加人数は実際の10倍。走行距離5000km、レース期間3か月。とんでもないウルトラマラソンだが、様々な職種、国籍の登場人物を多数配し、さらには政治家や当時のオリンピック委員会など、様々な妨害にあいつつも、それ以上の支援と応援を受け、ゴールまでたどり着く感動の物語である。
 はっきり言って読む前は、距離が長いだけのマラソン大会にどんなストーリーを絡ませることができるのかが疑問だったが、猛暑や豪雨などの自然との闘い、妨害工作などの人との闘い、そして資金不足など様々な困難が待ち構えてくる。ただ走るだけのストーリーにならず、いつしか一緒に走っている者たちの連携、友情や愛情などが彩るようになる。走りきることにプライドを賭け、一丸となって困難に立ち向かっていくその姿が美しい。
 最初は登場人物が多すぎるように感じ、どういう風にまとめていくのだろうと思いながら読んでいたが、いつしかそんな登場人物たちに感情移入してしまう。全員が、しかも走るものだけではなく、企画者や食生活などを支えるスタッフまでもが一体となる。
 いやあ、いいものを読ませてもらった。