前漢時代の中国。かつて国の祭祀を担った名家、
2016年、中国の新星出版社から刊行。2018年9月、邦訳刊行。
作者の陸秋槎(りく・しゅうさ/ルー・チウチャー)は北京生まれ。復旦大学古籍研究所在学中の2014年に短編ミステリ「前奏曲」で、第二回華文推理大奨賽(華文ミステリ大賞)の最優秀新人賞を受賞。本書は長編デビュー作。2013年、第3回島田荘司賞に応募するも一次選考で落選。同年8月、初稿を新星出版社の編集者に渡すもデビューならず。2015年1月に出版社と契約を結び、大幅な改稿後に出版されたという経緯がある。
時代は天韓元年(紀元前100年)、中国は前漢のころ。楚の雲夢澤が舞台。名家である韓家で起きた連続殺人事件を、客として呼ばれていた豪族の娘、於陵葵が解き明かす。
作者が構想と執筆中に影響を受けたのが麻耶雄嵩と三津田信三。それに作者が好きだという漢籍と、アニメ的キャラクター表現といった要素を全部一冊に詰めたという。主要登場人物のほとんどが女性というのも、そんな作者の好みなんだろうな。
古代中国文化や文学のペダントリーに満ちた物語は、はっきり言って読みにくい。ただでさえ登場人物の名前を覚え、関係性を確認するのに手間取るのに、引用が必要なやり取りが続くと、内容を理解するのに大変である。
ただ、推理の部分は面白い。ここまで生の感情をむき出しにしながらの推理合戦は珍しい。二度にわたる読者への挑戦状が示すように、作者は本格オタクなのだろう。ただそのオタクぶりが、良い方に転がった珍しい例と言っていいかもしれない。
前半は退屈だろうが、我慢して読むこと。そうすれば面白くなってくる。ここまで前半と後半の面白さが異なる作品も久しぶりだ。新本格の面白さと、それに対する批難も呑み込んで挑んだのだろう。うまく調理できたかと聞かれたら微妙だが。若さに任せて力任せに料理を行った結果味付けにムラができたが、うまく調味料が混じったところは美味しい、そんな作品である。