平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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エリック・キース『ムーンズエンド荘の殺人』(創元推理文庫)

 15年前に探偵学校で学んだ卒業生たちのもとへ、校長ダミアンの別荘で開かれるという同窓会の案内状が届いた。吊橋でのみ外界とつながる会場にたどり着いた彼らが発見したのは、意外な人物の死体。そして死体発見直後、吊橋が爆破され、彼らは外界と隔絶してしまう。混乱する彼らを待っていたのは、不気味な殺人予告の手紙だった――。密室殺人や不可能犯罪で次々と殺されていく卒業生たち、錯綜する過去と現在の事件の秘密。クリスティの名作に真っ向から挑む、雪の山荘版『そして誰もいなくなった』!(粗筋紹介より引用)
 2011年、アメリカで発表。2013年6月、邦訳刊行。

 作者のエリック・キースはゲーム会社のパズルデザイナーとして活躍。本作品はデビュー作となる。
 閉ざされた雪の山荘で次々と殺されていくという、『そして誰もいなくなった』の雪の山荘版である。作者の公式サイトには「アガサ・クリスティの“パズルとしての殺人”の伝統に則った古典的なフーダニット」と評されているという。
 集まるメンバーは探偵学校の同期。今は職業がバラバラで特に関係がなさそうに見えたが、実は過去の事件や現在の事件が彼らと色々関わっており、複雑な人間模様が連続殺人事件の動機の目くらましとなっている。しかも連続殺人の多くは不可能殺人や密室殺人と、パズルミステリならではの展開である。
 しかし欠点も多い。まずは序盤の視点の切り替えが早すぎて説明が足りず、人間関係を把握するのに時間がかかる。殺人事件が起きるまでは冗長。そして密室殺人がお粗末。謎解き部分で説明されると、興醒めしてしまう。
 ただ、本書で作者がやりたかったのはフーダニット、最後の犯人当て部分。その部分だけは悪くないかな。
 これだけ人間関係が入り組んでいるのなら、もう少し人間ドラマに筆を費やしてもよかったのにと思う。まあ、あくまでパズルミステリに挑戦したという気概と、これだけのページ数にまとめたという部分では褒められてもいい。