平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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川出正樹『ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション 戦後翻訳ミステリ叢書探訪』(東京創元社 キイ・ライブラリー)

 卓抜した編纂のもと選び抜かれたラインナップと、現代性を反映したブック・デザイン――日本の翻訳ミステリ叢書は、戦後国内で勃興したミステリ・ブームの一翼を担った。植草甚一の編纂と花森安治の装釘による【クライム・クラブ】や瀬戸川猛資の編纂による【シリーズ 百年の物語】など、綺羅星のごとき光芒を残す数多の叢書は、日本推理小説史にどのような光跡を描いたか。書斎の迷宮に眠る叢書という小宇宙が、著者独自の調査を経てここに全貌をあらわす。翻訳ミステリのブックガイドであり、戦後から現代に至る翻訳ミステリ叢書の研究であり、果ては戦後日本における翻訳ミステリの受容史を概観する画期的大著。(粗筋紹介より引用)
 『ミステリーズ!』No.50(2011年12月)~No.84(2017年8月)連載。加筆訂正のうえ、2023年12月刊行。

 タイトル通り、戦後に日本で出版された翻訳ミステリ叢書をまとめた一冊。まずは目次を転載する。

【目次】
まえがきにかえて
【異色探偵小説選集】編
【六興推理小説選書〈ROCCO CANDLE MYSTERIES〉】編
【クライム・クラブ】編
【世界秘密文庫】編
【Q-Tブックス】編
【ウイークエンド・ブックス】編
ケイブンシャジーンズ・ブックス/ヒッチコック・スリラーシリーズ】&【松本清張編・海外推理傑作選】編
【ゴマノベルス】編
【イフ・ノベルズ】編
【ワールド・スーパーノヴェルズ/北欧ミステリシリーズ】編
海洋冒険小説シリーズ】編
【河出冒険小説シリーズ】編
【フランス長編ミステリー傑作集】編
【シリーズ 百年の物語】編
あとがき
戦後翻訳ミステリ叢書・全集一覧
索引

 もうこれだけで、ミステリファンなら涎が出てくること間違いなし。古本屋で探し回った叢書、名前だけ知っていても見かけることのなかった叢書、新刊で出ていたけれどお金がなくて買えなかった叢書、そして見たことも聞いたこともない叢書。この目次だけで、ワクワクしてくる。これだけではなく、「戦後翻訳ミステリ叢書・全集一覧」には100近い叢書、全集が掲載されている。こんなに翻訳ミステリ叢書があるとは思わなかった。びっくり。1冊で終わっちゃったものもあるけれど。
 この本のすごいところは幾つもある。
 まずは叢書が編集された経緯や時代背景を調べているところ。なぜこの叢書が、ミステリに無縁そうな出版社から出ているのか。その背景を調べるだけでも非常に大変だったと思う。作家や評論家、編集者などのエッセイや解説から断片的な情報を発見し、つなぎ合わせる作業にいったいどれだけかかったのだろうか。好きでなければ、とてもできないと思う。
 そして叢書に入っているそれぞれの作家、作品についても紹介しているところ。それも歴史的な位置付けだけでなく、自身の感想まで付けてである。さらには、版元変更、完訳、新訳などの情報もフォローしている。この作品の紹介が実にいい。面白い作品については面白い、そうでない作品についてはそれなりの文章になっていて好感が持てる。こんなこと書かれたら、読みたい本がさらに増えるじゃないですか、これは。
 最後に叢書の一覧、さらには書影などがあること。資料的価値としても文句なしである。
 海外ミステリファンならガイドブックとして、そして資料として絶対手元に置いておいた方がいい一冊である。さらにユニークな翻訳ミステリ史として、歴史に残る一冊となるだろう。もう日本推理作家協会賞の評論部門と、本格ミステリ大賞の〔評論・研究部門〕はこれで決まり。いや、他の評論本を読んでいるわけじゃないけれど。
 正月はこれ1冊で満足していました。