平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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エリス・ピーターズ『雪と毒杯』(創元推理文庫)

雪と毒杯 (創元推理文庫)

雪と毒杯 (創元推理文庫)

 

 クリスマスが迫るウィーンで、彼らは欧州のオペラ界に君臨してきた歌姫の最期を看取った。チャーター機でロンドンへの帰途に着くが、悪天候で北チロルの雪山に不時着してしまう。パイロットを含め八人がたどり着いたのは、小さな山村――しかし雪で外部とは隔絶されていた。ひとまず小体なホテルに落ち着いたものの、歌姫の遺産をめぐって緊張感は増すばかり。とうとう弁護士が遺言状を読みあげることになったが、その内容は予想もしないものだった。そしてついに事件が――。修道士カドフェル・シリーズの巨匠による、本邦初訳の本格ミステリ!(粗筋紹介より引用)
 1960年、英コリンズ社のクライムクラブ叢書の一冊として刊行。ピータース名義の2冊目。2017年9月、邦訳刊行。

 

 修道士カドフェル・シリーズで世界的に有名な作者の、どちらかと言えば初期の長編。カドフェル・シリーズはかなり昔に1、2冊読んで以来なので、ほとんど初めて。
 既に1960年なのに、雪に閉ざされたクローズドサークルミステリ。ずいぶん古めかしい設定と思いながらも、語り口が達者なのですいすい読めた。誰が謎解き役になるのかわからない部分が、当時としてはちょっと新しいのか。それ以外の部分はミステリとしては古臭い造りだった。作者がごまかす気がないのかわかりやすい書き方をしているので、勘のいいひとなら犯人や動機は想像がつきやすいはず。
 むしろ恋愛小説だよね、これ。そちらのイメージのほうが強かった。その分、飽きずに読むことはできたが。
 本格ミステリが衰退し、現代ミステリの表層をまとうようになったころの作品。今読んでもそれほど古臭く感じないメロドラマ。謎解きサスペンスの要素を加味しましたってところか。