平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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オーエン・デイヴィス『九番目の招待客』(国書刊行会 奇想天外の本棚)

 夜の十一時、八人の著名な男女が、差出人の名前のない謎の電報によってニューオーリンズの二十階建ての高層ビルの屋上にあるペントハウスで開かれるパーティーに招待される。電報で主催者は独創的なパーティーの夜を約束していたが、主催者が何者であるかは誰にも知らされていない。彼らは奇妙な取り合わせのメンバーで、全員が互いに特定の人物を憎んでいた。
 主催者の正体をめぐって各自がさや当てをしていると、突然、部屋に据えられたラジオから主催者の声が流れてくる。ラジオの声は彼らに、これから生死をかけた最も刺激的で愉快なゲームをすると告げる――ゲームに勝たなければ、彼らは今夜、ひとりずつ死ぬことになると。思わぬ状況に直面した彼らは部屋から逃げようとするが、ドアには触れれば死に至るほどの電気が流れ、電話もなく、地上二十階にあるペントハウスでは脱出するいかなる手段もないことに気づく。パニックに襲われた彼らひとりひとりにやがて死が忍び寄る――。
 『そして誰もいなくなった』の謎の招待主U・N・オーエンを思い起こさずにはいられない「オーエン」・デイヴィスが、劇場で観客が耐えうる限りのスリルと興奮、恐怖とサスペンスを詰め込んだ傑作戯曲の幕が開く!(粗筋紹介より引用)
 1932年、Samuel Frenchより戯曲として刊行。2023年9月、邦訳刊行。

 1930年8月~10月にエルティング42番街劇場(現エンパイア劇場)で72回公演された、オーエン・デイヴィス作の三幕劇"THE NINTH GUEST"の戯曲。原作はグウェン・ブリストウ&ブルース・マニングの夫婦作家が書いた処女作『姿なき招待主(ホスト)』(扶桑社海外文庫より12月刊行)。ただし原作が刊行されたのは1930年11月とのことなので、舞台公演の方が先行している。1934年には"Tht 9th Guest"のタイトルで映画化されており、ストーリーは戯曲に沿ったが脚本はマニングとなっている。少々ややこしい経緯の詳細は、酔眼俊一郎の解説を参照のこと。
 オーエン・デイヴィス(1874-1956)はアメリカの劇作家で、1919年には、アメリカ劇作家組合の初代会長に選出されている。1923年の"Icebound"でピューリッツァー賞(ドラマ部門)を受賞した。
 戯曲はほとんど読まないのだが、さすがに「『そして誰もいなくなった』先駆作の本命はこれか?」などと書かれていては、読まないわけにはいかない。
 パーティーの招待客が謎の主催者に誘われて一か所に集まり、ラジオから流れる主催者の予告通りに一人、また一人と死んでいく。しかし彼ら、彼女らは部屋から出ることができない。まあ確かに『そして誰もいなくなった』を彷彿させる設定である。クリスティーが本作や映画を見たという記述はないとのことなので、この作品を知っていたかどうかは不明であるが、もしかしたら、と思いを馳せるのはミステリファンにとっても面白い話である。そのあたりのツボを突いた酔眼俊一郎の解説は必読。
 ただ肝心の中身であるが、当時の戯曲だから仕方がないのかもしれないが、トリックと物語の結末が呆気ない。ストーリー自体も、中盤のサスペンスは悪くないものの、今読むとよくある話と切り捨てられそうな内容だ。言ってしまえば、歴史的価値以上の面白さは存在しない。
 舞台で見るともう少し違うのかもしれないが、それでも古いと言われそう。まあそれも仕方がないか。こういう作品が同人誌ではなく、商業出版で読めることを喜ぼう。

 

 ところで「奇想天外の本棚」も残り2冊になったのだが、ちゃんと出るのだろうか。国書刊行会のサイトにも載っていないので、かなり不安である。