平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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山田正紀『僧正の積木唄』(文春文庫)

「僧正殺人事件」が名探偵ファイロ・ヴァンスによって解決されて数年。事件のあった邸宅を久々に訪れた天才数学者が爆殺され、現場には忌まわしき「僧正」の署名が……。全米中に反日感情が渦巻く中、当局は給仕人の日系人を逮捕。無実の彼を救うため立ちあがったのは、米国滞在中の金田一耕助だった!(粗筋紹介より引用)
 2002年8月、文藝春秋の叢書、本格ミステリ・マスターズより書下ろし単行本刊行。2005年11月、文庫化。

 文藝春秋の創業80周年記念事業の1つとして始まった本格ミステリ・マスターズの第1回配本のうちの一つ。ヴァン・ダイン『僧正殺人事件』の後日談と聞いていたので、それほど興味を引く作家ではなかったこともありスルーしていたのだが、まさか金田一耕助が出てきているとは知らなかった。ということで今更ながら手に取って読んでみる。
 そもそも『僧正殺人事件』を呼んだのが相当昔であり、しかもつまらなかったことしか覚えていないので、実は僧正殺人事件の真相は、などと言われても全くピンと来ないし、未読の人に配慮された書き方になっていることもあって、何が何だかわからないところも多い。ああ、ファイロ・ヴァンスがつまんないやつだというのだけは何となく覚えていたが、本作でもひどいな描かれ方しかされていない。
 金田一耕助が「サンフランシスコで発生した奇妙な殺人事件を解決した」と『本陣殺人事件』で言及されている事件、という形になっている。そのため、久保銀造も登場。耕助はチャイナ・タウンで阿片に耽溺していたが、それを探し出すのはすでにピンカートン探偵社を辞めて売れっ子作家になっていた人物。他にも長谷川梅太郎の友人で、丹下左膳のモデルになった右腕と右目を失った人物も登場する。
 舞台が1930年代のサンフランシスコということもあり、日本人差別がひどい。事実なのだから仕方がないが、読んでいてつらい。そして、こういう歴史的背景は、金田一耕助にもヴァン・ダインにも似合わないと思った。読んでいて戸惑いを覚えるし、重苦しくて続きを読む気が失せてしまう。
 それ以外にもいろいろな要素を詰め込み過ぎて、焦点がぼやけてしまった印象がある。裁判のその後など、投げっぱなしになっている部分もある。僧正と金田一のオマージュというわりには、事件の背景も動機も納得いかないものであった。もっと普通に、本格ミステリを楽しめる作品に仕上げてほしかった。
 意欲は認めるが、失敗作だと思う。材料を詰め込み過ぎて、さらに変な調味料を足して沸騰させ、鍋からあふれてしまった料理みたいな作品だった。