平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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D・M・ディヴァイン『すり替えられた誘拐』(創元推理文庫)

 ブランチフィールド大学には問題が山積していた。入学者数の減少、窃盗の容疑者である学生の除籍処分に対する抗議運動、その上新たに、講師と交際している問題児の学生バーバラが何者かに襲撃されたばかりか、誘拐が企てられているという怪しげな話が飛び込んでくる。数日後、学生の言論クラブが主催する集会の最中、彼女は本当に拉致された。ところが、この誘拐事件は思いもかけぬ展開を迎え、ついには殺人へと発展する――入り組んだ事件が鮮烈な結末を迎える。謎解きミステリの職人作家ディヴァインならではのエッセンスが詰まった長編!(粗筋紹介より引用)
 1969年、ドミニック・ディヴァイン名義でイギリスで発表。2023年5月、邦訳刊行。

 1961年から1973年まで、1963年を除いてほぼ1年に1冊ペースで出版していた( 『ウォリス家の殺人』のみ死後の1981年発表)ディヴァインの第8長編。
 資産家レッチワース卿の娘で、ギリシャ語の助講師マイケル・デントンと交際している大学の問題児、バーバラ・レッチワースが言論クラブの集会の夜、噂通りに本当に拉致された。ところが思いがけない展開が続き、殺人事件に発展する。
 当時のイギリスの大学はこういう雰囲気なんだろうなと思わせる描写はさすが。そして資産家の娘とは思えない(もしくはだからこそか)バーバラの振る舞いが、なんともまあ嫌らしい。頼りないマイケルも含め、人物造形がしっかりしている。そしてどう考えてもブラコン(この時代にそんな言葉はないだろうが)なマイケルの姉、ローナが実にいい。彼女には幸せになってほしい。
 フーダニットの部分はあまり面白くない。推理が当たるかどうかはともかく、だいたい想像がつくだろう。ただ本書が面白かったのはその後。フワイダニットの部分が読みごたえがあるし、サスペンスに転じるところは巧い。この辺は熟練工ならではの味だろう。
 しかし、どことなくいびつな感じがするのも確か。完成形に問題がなくても、手順がどことなく違っている違和感があった。それがどの部分なのかわからないのがもどかしいのだが、読み終わってもしっくりこないところがある。結末の、これじゃない感のところかな。
 佳作だとは思うけれど、なんとなくディヴァインに求めているものとは違う仕上がりという感じがあった。まあ、具体的なことが言えないから、ただのいい加減な感想にしかなっていないのだが。