平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

杉井光『世界でいちばん透きとおった物語』(新潮文庫nex)

 衝撃のラストにあなたの見る世界は『透きとおる』。
 大御所ミステリ作家の宮内省吾が死去した。宮内は妻帯者ながら多くの女性と交際し、そのうちの一人と子供までつくっていた。それが僕だ。「親父が『世界でいちばん透きとおった物語』という小説を死ぬ間際に書いていたらしい。何か知らないか」 宮内の長男からの連絡をきっかけに始まった遺稿探し。編集者の霧子さんの助言をもとに調べるのだが――。予測不能の結末が待つ、衝撃の物語。(粗筋紹介より引用)
 2023年5月、書下ろし刊行。

 巷で評判の一冊、手に取ってみた。杉井光の著作を読むのは初めて。申し訳ないが、名前も初めて聞いたぐらい。そのため、どんな作品を書くのか全く想像もつかなかった。ネタバレ厳禁!とのことなので、その他の情報は一切触れないようにしてきた。
 主人公は藤阪燈真。校正者である母・恵美と二人暮らしだった。父親は大御所ミステリ作家でプレイボーイの宮内省吾(本名・松方朋泰)であり、いわゆる不倫関係にあった。恵美は堕胎の提案を拒み、一人で燈真を生み、育ててきた。そのため、燈真は宮内と会ったことすらない。燈真が高校卒業後、大学へ行かず本屋のアルバイトをしていた18歳の冬、恵美が交通事故で亡くなる。恵美の唯一の友人である、編集者の深町霧子のおかげで無事に葬式等を済ませ、再びアルバイト生活に戻った。それから2年後、闘病中の宮内省吾が癌で亡くなった。1か月後、宮内の本妻の息子である松方朋晃から、『世界でいちばん透きとおった物語』という小説を死ぬ間際に書いていたらしいが、知らないかという連絡を受けた。燈真はアルバイトの合間、霧子からの助力を受けつつ、宮内と関係のあった三人の女性や業界関係者などに話を聞きながら、遺稿を探し続ける。別の何者かからの妨害を受けながら。
 あまりごちゃごちゃ書かない方がいいだろう、この作品は。本当に丁寧に作られている。終盤で作者の狙いがわかって思わず声を上げてしまった。そして最後は唸ってしまった。いやあ、見事。物語にも脱帽した。凄い。こんなこと、考えるだけでもすごいのに、実現させるのはもっとすごい。まさに世界が透きとおった。ただ、これ以上は書けないな。もう読め、としか言いようがない。
 作者のインタビューによると、執筆2か月半とのこと。信じられない。ミステリとして傑作か、と聞かれたら違うと答えるだろう。しかし、凄い作品だ!と声を大にして言いたい。