平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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サイモン・カーニック『ノンストップ!』(文春文庫)

 電話の向こうで親友が殺された。死に際に僕の住所を殺人者に告げて。その瞬間から僕は謎の集団に追われはじめた。逃げろ! だが妻はオフィスに血痕を残して消え、警察は無実の殺人で僕を追う。走れ、逃げろ、妻子を救え! 平凡な営業マンの決死の疾走24時間。イギリスで売上40万部、サスペンス史上最速の体感速度を体験せよ。(粗筋紹介より引用)
 2006年、イギリスで発表。2010年6月、文春文庫より邦訳刊行。

 粗筋だけを見ると、濡れ衣を着せられた逃亡者が警察に追われながら犯人を捜すサスペンスかな、と思っていたのだが、予想外の方向に流れていったので驚いた。
 35歳のIT企業の営業マンであるトム・メロンは、電話の向こうで親友で弁護士のジャック・カリーが自分の住所を告げた後に殺されたのを聞いてしまう。殺人者が来る前に逃げなければと、娘と息子を義母のアイリーン・タイラーに預け、携帯電話がつながらない妻のキャシーが働く大学へ向かった。しかし研究室にキャシーは不在で、血の塊が落ちていた。さらに謎の男に襲われるトム。何とか逃げ出したところでトムは警察に殺人容疑で逮捕される。キャシーの同僚であるバネッサ・ブレイクが殺害されたのだ。一方、国会犯罪対策局(NCS)のマイク・ボルト警部補は、トリストラム・パーナム=ジョーンズ主席判事の自殺事件を追いかけていた。ボルトは部下であるモー・カーン巡査部長より、事情聴取の予定であったジョーンズの弁護士であるカリーが殺害されたことを知る。
 作品の原題は"RELENTLESS"であるが、邦題の“ノンストップ”が示す通り、トム・メロンの必死の逃走劇と、トムを狙う追跡劇がノンストップで進んでいく。特に殺し屋であるレンチの追跡劇は、原題にふさわしい執拗さ。同じく追いかける側のボルトとモーのキャラクターもいい。やはり登場人物のキャラクターがしっかりしていると、物語の理解が早まるし、読んでいて面白い。
 土曜日の午後から日曜日の午後まで、わずか一日の物語。その間に起きる事件はいくつあるだろう。次から次へと情勢が変わり、誰が真実を語っているのかわからなくなる。所々に忘れ去られている部分がある気もするが、気にする必要はないだろう。謀略サスペンスが最後は家族の物語に変わっていく展開の流れは、見事であった。ただ最後にあいまいな部分が残るのはちょっと残念ではあるが。続編があるようではなかったし。
 ジェットコースターサスペンスといえばこれ、と挙がる作品の一つと言っていいだろう。一気読み間違いなし、娯楽作品の傑作だった。