平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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東川篤哉『スクイッド荘の殺人』(光文社)

 十二月中旬の烏賊川市、閑古鳥すら逃げ出す鵜飼探偵事務所を訪れたのは、市で数軒の遊戯施設を経営している小峰興業の社長、小峰三郎。脅迫状が送られてきたので、クリスマス休暇を過ごすゲソ岬のホテル、スクイッド荘で身辺警護をすることになった鵜飼杜夫と助手の戸村流平。そして当日、大雪の中で鵜飼と戸村は小峰、内妻の霧島まどかと車で向かっていたが、途中で事故車に遭遇。怪我で意識を失っている運転手の若者、黒江健人を連れて、スクイッド荘に着いたはいいが、雪で道がふさがれた。断崖絶壁に建つ烏賊の形をしたスクイッド荘で翌朝、健人の行方が分からなくなった。鵜飼から電話でその話を聞いた烏賊川署刑事課の砂川警部は驚き、部下の志木刑事を連れてある家に行った。そこは砂川のかつての上司である黒江譲二元警部補の家だった。健人は実は譲二が年を取ってからの息子だった。そして二十年前、烏賊川市でバラバラ殺人事件が発生し、殺されたのは三郎の兄の太郎、そして容疑者のまま行方が分からなくなったのは太郎の弟の次郎であった。当時、捜査に携わっていたのが黒江と砂川だった。
 『ジャーロ』67(2019年春)号~79(2021年11月)号連載。2022年4月、単行本刊行。

 

 『探偵さえいなければ』以来5年ぶりとなる、烏賊川市シリーズ最新作。長編は『ここに死体を捨てないでください!』以来13年ぶり。今回は20年前に起きたバラバラ殺人事件と、現代に起きた殺人事件の因縁を、鵜飼が解き明かす……ということにしておこう。
 鵜飼と戸村のドタバタ探偵コンビは健在。砂川と志木のドタバタ警察コンビも健在。片や雪に閉じ込められたスクイッド荘で殺人事件に遭遇、片や20年前のバラバラ殺人事件の繋がりを捜索。だけど緊張感は全くないし、ほとんど漫才のようなやり取りも相変わらず。ほとんど冗談のような展開から、最後は実は本格ミステリだった、という終わり方は面白かった。
 ただ謎解きとしてみると、トリックそのものはたいしたことはない。まあ、本格ミステリとしてのプロットを楽しむ作品だから、それを言っても仕方がないだろう。だけど久しぶりの長編なのだから、難解な謎解きを読んでみたかった気もした。予定調和で終わっちゃっているんだよな。贅沢な物言いかもしれないが。