平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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米澤穂信『犬はどこだ』(創元推理文庫)

犬はどこだ (創元推理文庫)

犬はどこだ (創元推理文庫)

何か自営業を始めようと決めたとき、最初に思い浮かべたのはお好み焼き屋だった。しかしお好み焼き屋は支障があって叶わなかった。そこで探偵事務所を開いた。この事務所<紺屋S&R>が想定している業務内容は、ただ一種類。犬だ。犬捜しをするのだ。……それなのに、開業するや否や舞い込んだ依頼は、失踪人探しと古文書の解読。しかもこのふたつは、調査の過程でなぜか微妙にクロスして――いったいこの事件の全体像とは? 犬捜し専門(希望)、25歳の私立探偵、最初の事件。青春ミステリの旗手が新境地に挑んで喝采を浴びた私立探偵小説。(粗筋紹介より引用)

2005年7月、東京創元社より単行本刊行。2008年2月、文庫化。



米澤穂信が青春ミステリではなく、私立探偵小説に挑んだ一冊。皮膚病で会社を辞め、地元に帰ってきて犬専門の探偵事務所を開いたはずの紺屋長一郎のところに訪れてきたのは、失踪した孫を探してほしいという依頼。続けてきた依頼は、神社で見つかった古文書の解読。失踪人探しを紺屋が、古分署解読を押しかけ助手のハンペーこと半田平吉が調査するも、いつしか二つの事件がクロスする。

構成は、二つの捜査が紺屋とハンペーの視点で交互に語られる。どことなくユーモアにあふれた作品だが、調査の方はやや都合のよい点が目立ち、読んでいて苛立つ。特にチャット仲間の〈GEN〉にインターネット上のトラブルを探してもらうくだりは、図々しいプロットである。

本書の肝は二つの調査がクロスするところと、その裏に隠された秘密である。徐々に真相に近づいて、最後に明かされる展開はかなりブラック。何となくこれが、作者の本性じゃないかと思われる。読んでいて、後味のよいものではない。前半の緩い展開に騙されてはいけない。

米澤流の私立探偵小説の結果が、この作品なのだろう。正直、あまり感心するところはないのだが、評判が良いから不思議だ。シリーズ化前提、という感じの登場人物の配置だが、今のところ本作しか書かれていないらしい。