平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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石持浅海『賛美せよ、と成功は言った』(祥伝社 ノン・ノベル)

武田小春は、十五年ぶりに再会したかつての親友・碓氷優佳とともに、予備校時代の仲良しグループが催した祝賀会に参加した。仲間の一人・湯村勝治が、ロボット開発事業で名誉ある賞を受賞したことを祝うためだった。出席者は恩師の真鍋宏典を筆頭に、主賓の湯村、湯村の妻の桜子を始め教え子が九名、総勢十名で宴は和やかに進行する。そんな中、出席者の一人・神山裕樹が突如ワインボトルで真鍋を殴り殺してしまう。旧友の蛮行に皆が動揺する中、優佳は神山の行動に“ある人物”の意志を感じ取る。小春が見守る中、優佳とその人物との息詰まる心理戦が始まった……。(粗筋紹介より引用)

2017年10月、書き下ろし刊行。



碓氷優佳シリーズ最新刊は、『わたしたちが少女と呼ばれていた頃』から4年ぶり。『わたしたちが少女と呼ばれていた頃』から15年後という設定であり、当時の登場人物が年齢を重ねて再登場する。ほとんどの登場人物は結婚しており、それは碓氷優佳も同様。色々と面倒なので、基本的には旧姓で通しているという設定である。

当時の親友である上杉小春、現姓武田小春が語り手。今までの長編では犯人が語り手だったので、珍しい。作者によると、「仕掛ける側と切り崩す側の、穏やかで息詰まる駆け引き。それを立会人目線で描くと、どのように見えるのか」とのこと。なるほど、立会人目線では二人のやり取りがこう見えるのか、と思わせるものはあった。ただ、そのためには立会人が両者の思惑を知っている必要があるため、結局小春も事件の真相をある程度見抜いている、という結果になっている。その分、他の人物の間抜けさ、勘の悪さというのが際立ってしまい、読んでいて少々苛立ってしまった。事件の構図は中途でわかってしまうものであり、登場人物たちがいつ結論に辿り着くのか、イライラしながら読む結果となっているのは、作品に没頭することができず、興醒めしてしまう。これ以上長くするとダラダラしたものとなってしまうことから仕方がないだろうが、作品の短さも併せ、物足りなさを覚えたまま読み終わってしまったのは残念な事であった。

せっかくのシリーズだけど、正直言って終わりにすべきじゃないかな、などと思ってしまったが、優佳の旦那の再登場だけは期待したい。