平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

深堀骨『腿太郎伝説(人呼んで、腿伝)』(左右社)

 昔昔のワンス・アポン・ア・タイム、と云っても然程昔ではない程度に昔、あるコミュニティにGさんとBURさんが棲んでいた。ある日、Gさんが山へシバきに(その実はシバかれに)いってる間に川へ選択にいったBURさんは、若い女の腿を拾う。腿を切ると、中から異様に大きな逸物を持つ赤子が生まれた。二人は腿から生まれた赤子を「腿太郎」と名付けて育てる。成長し、コミュニティ内の風呂屋〈湯気湯〉の三助となった腿太郎は、自らの出生の謎を解くため、犬(名前は「猫」)、猿(コスプレ)、キジ(丼)、それ以外の愉快な(?)仲間たちと共に〈鬼ヶアイランド〉を目指す……(粗筋紹介より引用)
 2023年2月、書下ろし刊行。

 鬼才? 異才? 変態? どういう冠を付けたよいかわからないが、あの『アマチャ・ズルチャ 柴刈天神前風土記』の深堀骨の20年ぶりとなる単行本で、初の長編。
 女の腿から生まれた腿太郎が、犬、猿、キジたちを連れて鬼ヶアイランドを目指すという、むかし話の「桃太郎」を大胆にアレンジした作品なのだが、これが何ともハイテンションでシュール&ナンセンスギャグの極みみたいな作品。そもそもどうして腿から赤ちゃんが生まれるんだという話だし、腕から生まれた腕太郎も出てくる。GさんとBURさんはゲイカップルだし、Gさんは芝刈りではなく、鞭でシバかれに山へ行く。腿太郎がなぜ三助になるのかという展開もわけがわからないし、さらに出てくる人物にまともな人がいない。そもそも、まともって何? と自分の感覚を疑ってしまうくらい、わけがわからない人たちばかりである。しかも昭和のパロディばかりで、平成生まれの人には何が何だかわからないだろう。力口山雄三ぐらいならまだ許容範囲だけど、「わ~かめスキスキピチピチ~♪」のパロディはさすがに元ネタを思い出すのに苦労した。
 ストーリーもハチャメチャというか、出鱈目というか。それでいてなんだかんだストーリーが成立しているところが凄い。バカバカしいように見えて、ちゃんと計算されている……かどうかはわからないが、面白い作品に仕上がっているのだから、やっぱり異才なのだろう。
 この作品の問題点は、とっかかりかな。バカバカしい登場人物と展開で、全部読まないうちに投げ出すかもしれない。その山さえ越えれば面白くなるから、是非とも読んでほしいものだ。とてつもなく高い山だとは思うが(苦笑)。
 赤塚不二夫が読んだら面白がりそうだな、という気はする。『がきデカ』のノリの方が近いか。それぐらいナンセンスでハイテンション。ファンタジーのかけらも見当たらないファンタジー作品である。この人にしか書けないことは間違いない。まあ、手に取ってみてよ、と言いたくなる怪作である。