平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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イアン・ランキン『黒と青』(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 1960年代にスコットランドを震撼させた絞殺魔“バイブル・ジョン”。事件は迷宮入りとなっていたが、それから三十数年、同様の手口の事件が起き、リーバス警部は捜査に乗り出した。はたして伝説の犯人が帰ってきたのか、あるいは模倣犯の仕業か? 折りしもリーバスが昔担当した事件で服役中の囚人が冤罪を訴えて獄中で自殺。警察の内部調査が開始されることとなった。四面楚歌の状況のなか、リーバスの地を這うような捜査が続く。ミステリ界の次代を担う俊英が放つ傑作警察小説、遂に刊行!(粗筋紹介より引用)
 1997年、発表。同年、英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー賞受賞。1998年7月、邦訳刊行。

 

 エジンバラを舞台とするジョン・リーバス警部シリーズ長編第8作目。イアン・ランキンの長編が邦訳されたのは、本作が初めてであった。タイトルはローリング・ストーンズのアルバム『ブラック・アンド・ブルー』から来ている。
 リーバス警部は第1作では若い刑事だったとのことだが、本書では五十男で、クレイグミラー署犯罪捜査部に転勤している。離婚しており、別れて暮らす娘が一人。冴えない見た目であるし、酒は飲みすぎ、煙草は吸いすぎ。上司の命令には従わず、一人で行動するなどの問題児。しかし上司や権力、闇の組織を恐れず、犯罪を悲しみ、部下には優しさを示す。
 本書では北海の石油掘削基地の労働者が転落死した事件を追うものの、昔担当した事件の犯人が服役中に冤罪を訴えながらも自殺したため、マスコミの注目を浴びる。しかもその時の捜査の違法性を問われることに。一方、スコットランドでは迷宮入りした過去の連続殺人事件と同様の手口による連続殺人事件が発生しており、さらに麻薬売買に絡む殺人事件も発生。同時に複数の事件が進行するモジュラー型のストーリーだが、どれにもかかわってしまうことで精神的に追い込まれながらも、リーバスは一人で事件に立ち向かっていく。
 ハードボイルド風味の警察小説といった感じ。個人的には好きになれないタイプのリーバス警部だが、事件を追いかける執念はすごい。そこに引き込まれた。とはいえ、読んでいて疲れるな、モジュラー型は。ストーリーを把握するのには苦労した。だけどじっくり読みこめば、エジンバラの描写も含め、イギリスの舞台を楽しむことができた。時間があるときに、ゆっくり読むべき作品。